Angel's smile
















友――…















 待ち続けるよ 103













セッツァーは人目のつきにくいバーの隅にいた。


暗い影を漂わせる彼には年相応の風格がある。


もし彼が見知らぬ人物であれば声もかけることもないだろうが、


幸いな事に彼は大切な仲間の一人だった。


は鼻に残る不快なまでの酒のにおいに顔をしかめた。




「僕達といこうよ、セッツァー。戦いを終わらせるんだ」


「ふ…もう俺は何もやる気力が無いよ」


「…?」


「何を言っているのよ」




セリスがつかつかとブーツを鳴らしながら入り込んできた。


せっかく見つけた仲間がすっかりこんな


辛気くさい酒屋に馴染むほど落ちぶれてしまっている。


哀愁じみた雰囲気にセリスは「何故?」と疑問に思った。




「もともと俺はギャンブルの世界…


 人の心にゆとりがあった平和な世界にのっかって生きて来た男…


 そんな俺に、この世界はつらすぎる。それに翼も失ってしまった…」


「負け戦はしないってこと?それってただの負け犬じゃん」


「……だが、俺にはもう翼がない」


「そんなのただの言い訳だよ。屁理屈だ。口実だ。


 なければ奪えばいい、作ればいい、探せばいい……


 ――アンタってそういうやつじゃなかったっけ?」




は容赦なく言葉をたたきつけた。


彼女自信、そんな廃れた彼を見ているのは辛かった。


だからこそ、その言葉一つ一つにはいつもとは違う重みを含んでいた。


思い出して。


あの頃のコトを。


共に戦った日々を。


その時抱いていた夢を。


未来を。


もう一度、思い出して。


はじわりと目頭が熱くなるのを感じてそっぽを向いて黙り込んだ。


ぎゅ、と握りこぶしを作った彼女にセッツァーは胸を打たれていた。


けれど。


そう思ってしまう自分は、変わってしまったのだろうか。




「世界が引き裂かれる前に、あなたは私達と必死に戦ってくれたじゃない?


 あんなつらい戦いに……」




セリスが沈黙を破るように言った。


グラスの氷がかりんと音を立てる。


セッツァーは目を細めて首を振った。




「でももう俺は…夢をなくしちまった」


「こんな世界だからこそ……もう一度。


 夢を追わなければならないんじゃない?世界をとりもどす夢を…!」


「行こうよ、僕達と――」




が顔を合わせずに言った。


セッツァーは一度黙り込み、何かを考え込んだかと思うと静かに頷いて見せた。




「ふふ……あんたの言うとおりだぜ。つきあってくれるか?俺の夢に…」


「…!なら!」


「行こう…ダリルの墓へ…」




立ち上がったセッツァーはまるで子供をあやすように


の頭に手を置いた。


心配かけてすまなかったな……。


彼なりの謝罪なのだろう、とは思った。


くい、と微笑んだ。




「……よみがえらせる…もうひとつの翼を!」









 +









コーリンゲンを西へ少し歩いたところにセッツァーのいう“もう一つの翼”があるようだ。




「ここは……あなたの友達の……」




一人の女の墓とは思えないほど立派なそれには不思議そうに見ていた。


セッツァーはその墓の入り口を一目見て




「たいしたヤツだ。世界がひっくり返っちまったてのにビクともしちゃいねェ」




と、ふっと微笑んだ。


久々に再会するのであろう。


懐かしさの含む視線。


思い出に浸っていたセッツァーは皆を見渡して余裕気に微笑んだ。




「なんたって墓だからな。いろいろ出るかもしれないぜ。気をつけな」




もっとも、がいるなら問題はねェがな。


そう付け加えるとセッツァーは先手を切るように墓の中へ入っていった。


は杖をぎゅ、と握りなおしてセッツァーの後を追った。




薄暗い階段を下っていく。


下へ、下へ。


蝋燭に炎を点していくと足元に転がっている様々なものまで綺麗に見えた。


そういった類の物に戸惑いを見せるかと思いきや、意外と得意らしく、


もセリスもつかつかとミイラやゾンビと言ったモンスターを攻略していった。


これは心強いな。


と思わず思したエドガーの言葉にセッツァーとマッシュは肯定するように頷いた。




「いろいろと思い出すぜ」









セッツァーは階段を一歩一歩踏みしめながら歩いた。














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あとがき

103話お届け。

やっとサブタイトルをチェンジ。
長かった。しつこいくらいに長かった;;

なんの捻りもないタイトルですが、次の場所まで続けたい。
てかロックをはよだしたいぜッ!!
↑本音

翼だ…翼さえあればいけるんだ!あの場所にッ!
(↑おい、ストーリー構成無視すんな)
……深にとっても修羅場です( ̄■ ̄)

ということでぽちり (殴)
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