Angel's smile
















いつも君がそうしていたように――…















 待ち続けるよ 104













『今度のテスト飛行は危険かもしれない』




懐かしい情景を思い出した。


階段を一歩一歩下りていくたびにそんな昔の彼女とのやり取りを思い出す。


まるで彼女がセッツァー自身に思い出してもらおうと


問いかけているように瞼の裏をちらついた。




『船の限界まで挑戦するなんてムチャだ!!』




そうとめるのも虚しくダリルは自分に何かあれば


セッツァーに飛空挺…ファルコンを譲ると言い放った。


挑発的なその口調には限界を挑戦する事への


恐れは一切感じられなかった。


それくらい強い女性であり、ギャンブラーだったのだ。




『バカ言え!ファルコンをいただくのはスピードでお前に勝った時だ。


 それまでは俺の前から逃がさねェ』


『ふっ、すきにしな!』




そして。


いつまでも強気な彼女の背中ばかり見てきた。




『やっぱり空は最高だな!』


『いつまで後にいるつもり?くやしかったら私の前に出てみな』




雄大な空を二つの飛空挺が切り裂く。


雲を割って風を切る。


頬を撫でる冷たい風は地上では味わえないスリルをくれた。




『それとも私のおしりがそんなに魅力的なのかしら?』




はっとなり舵を操縦する。


ダリルは横目にふっと微笑んでいた。


流石だな。


そんな不適な表情を見るたびにそう思ってしまうのだ。




『これからが本番よ。記録をぬりかえるわ!


 雲をぬけ、世界で一番近く星空を見る女になるのよ!』


『日没までに帰れ!いつもの丘でおちあおう!』




加速するファルコン。


飛空挺の距離が開いていく。


小さくなっていく飛空挺。


そしてファルコンは雲間に消えた。




巨大な太陽が地平線に沈む。


空が炎のように赤く染まり、矢賀と反対側の空から夜がやってきても、


彼女が約束の丘に戻ってくる事はなかった。









 +









「遠くの土地で壊れたファルコンを見つけたのはそれから1年後だった……」




ダリルの墓の最下層。


人を寄せ付けない雰囲気を放つその場所には


以前セッツァーが乗っていたブラックジャック号と


瓜二つの飛空挺の姿があった。


その名はファルコン…


セッツァーが目を細めて機体を撫でていく。




「俺はファルコンを整備し大地の下に眠らせてやった…」


「これが、ファルコン?」




が聞くとバーにいたときとは打って変わって、


初めて会ったときのような不敵の笑みを浮かべて頷いた。




「羽を失っちゃあ世界最速の男になれないからな。


 また夢を見させてもらうぜ。ファルコンよ」


「今度は俺達の夢を」


「がれきの塔のケフカを倒しに行きましょう」


「…(がれきの塔…)」




知らなかった情報には沈黙した。


聞いた事もない場所だ。


元々そんなに地理に詳しいと言うわけではないが


崩壊前の世界にはなかった建物だろう。


…となると世界が引き裂かれて、自分が眠っていた一年間に


ケフカが生み出したものだろうか?


飛空挺でならばいける場所。


空からならいける場所。


自分なら――いける。




(ま、一人では行かないから)




安心して。


今度こそ、誰も裏切らないよ。




「そして俺達の仲間をさがそう」


「そう。俺達にもまだ夢はある。いや夢をつくりだせる!」




エドガーが言う。


飛空挺に全員が乗り込むと、セッツァーが舵を操縦し、機体は発進した。


懐かしいゆれが体中にしみる。


初めて乗ったときは怖いとしか思えなかった飛空挺にも


ずいぶん慣れたのか、今では懐かしいという思いだけが膨らんでいた。


水しぶきを上げながら水面を波立たせ、そして、空へと――


その時セリスがはっと身を乗り出した。




「あの鳥は?!もしや…セッツァー!追って!」


「どうした?」


「わからない……けど、あの鳥の行く先に仲間がまっていそうで…」




セリスの指差すのは白い鳥。


セッツァーは目の端に鳥を捕らえて操縦桿を操作した。


飛空挺ファルコンは再び空を爽快に走り出した。









 +









「…?」




はっと振り向いて空へと意識を集中させる。


隣にいたティナはそんな彼の不自然な様子に疑問を抱いた。




「どうしたの?……


「魔力を…感じたんだ」


「敵?…でも今の私には…」




ティナが不安そうに項垂れる。


そんな彼女を安心させるように首を振って微笑んで見せた。


いつものように。


いつも片割れがそうしてたように。




「敵じゃないさ。大丈夫、僕が――守るから」


「…うん」






胸に感じる痛みの理由を知る由もなかった。














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あとがき

104話更新

次の要素を描きつつ終了。
今回のサブタイトルはこのモブリズ編が
終了するまでという事で^^

次で合流できると…いいなぁ(いつも曖昧;)
大雑把なのは決めてるんですが…
時たま指が一人歩きすることがあります
ミステリーorz

ということでぽちり (殴)
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