Angel's smile

















あなたは今どこで何をしていますか?――…















 Last letter 108
















髪の毛が額にくっつくのを半ば鬱陶しそうにかきあげる


ゾゾの町は一年前と欠片も変わった雰囲気を見せず


ただ相変わらずに微量の腐敗臭と湿気を漂わせていた。


屋根のある場所まで移るとセリスは先ほど奪いとっ…


もとい、丁重に頂いたサビトレールを片手に錆びついた扉を探していた。


そして階段を上りつつ、微笑みだす。




さんも大分成長したわよね」


「…。何いきなり、気持ち悪いな」


「フフ…あの時はこのビル登るだけで何日かかるかと思ったわ」


「同感」


「…エドガーまで」




エドガーが肩を持ち上げて共感しはそれを睨んで制した。


彼女のトラウマについて知らない彼らではない。


知っていて、それを笑い話にできるなんてあのころは思いもしなかった。


なんだか変な心地だ。


初めはこの違和感の中自分がこのぬるま湯にそぐわないのではないかと


孤独を感じることだって多々あった。


それなのに今は。


この違和感すらも心地いいって思うようになっている。


まったく。時は流れているのだということを自覚すると少し笑えた。




「ロックがいればもっといじってもらえるのにね、さん」


「…何そのMなのにいじられなくて困ってるでしょ発言」


「え?さんはかくれMだわ」


「違 い ま す !そんなネタいまさら掘り返さなくていいから!」


「ホントロックったらどこにいるのかしらねー」


「…っ!!」




は握り拳を一つ。


セリスに噛みつくそぶりを一瞬見せたものの


顎に人差し指を当てて澄ました表情のセリスには


かなわないと思ったらしくふい、と先に階段を上って行ってしまった。




「(ホント、どこにいるんだか…)」




タッタッタとブーツの音と雨音が妙に耳に響く中、


はぽつりとつぶやいた。









 +









扉を開けばそこは…




「…山?」




であった。


薄暗い山道につり橋にどこか遠くの方で聞こえる獣の息遣い。


ゾゾ町のビルの最上階、錆びついた扉を開くと


一瞬にして雰囲気が変わりはほんの少し困惑した表情を見せた。


それは後からそのテリトリーに踏み入ったエドガーやセリスとて同じだった。


シャッ。


いきなり背後に感じた獣の気配には咄嗟に身を翻し


背中を向けることを回避しつつ武器を構えた。


振り落とされたのは巨大な爪。


単体かと思いきやうねうねと動く植物のモンスターもいた。


ぴんと張り詰める空気。


すると突然対峙するかと思っていた大熊は種を返して翻していった。


しばらく呆然とする


しかし大熊の爪先に自分の財布が引っ掛かっていることに気がつく。




「――あ!僕の4000ギル!!!」


「(え、少な…っ)」


「――うっさい!セリス!」




背中に聞こえていた一言にとどめを刺し(たつもりでいるだけ)


は全速力で山道を駆け上った。


流石は大熊。


地に利があると思われる。


なれない山道に足を取られがちだった


こうなったらと指先に魔法の力を集中させた。


すると視界の上の方から何か影が落ちるのが見えた。




ザッ。




ナイフだった。


大熊の足元のに落ちたナイフ。


不意を突くには十分で大熊は一瞬足を止め、見事にの電撃を浴びた。


逃げ去る大熊から見事財布を奪還し、は見覚えのある


ナイフを見つめてにやりと笑った。




「ヴァーユ…」


「どもっす!さん」




にか、と太陽のように笑い、片手を上げるヴァーユ。


数日ぶりの再会だが彼に至っては何の変化ものさそうだった。


彼がナイフを回収しているうちにがやってきた方角から


セリスやエドガーが自分を探す声が聞こえた。


は自分の居場所を知らせるべく声を張ろうとした瞬間


ヴァーユに小声で耳打ちされ、大きく目を開いた。









「ロックさんの居場所…わかったっすよ」














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あとがき

108話更新ですがな

ヴァーユ君登場。
思えばフィガロ城周辺から出しているにもかかわらず
全く出番がないこの子。
サイドストーリーもサイドストーリーすぎて
本当に裏話状態ですね;
…なんとか織り交ぜられたらって思いますが…。

ということでぽちり (殴)
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