Angel's smile


















言いたいことも、言えないことも、沢山ある――…















 Last letter 110
















『 ローラへ


 これまで、嘘を書きつづけてきた拙者を許してほしい。


 もう真実から目をそらすのは終らせなければならぬと思い


 今は、ふでをとっている。モブリズのあの若者はもう、


 この世にいない。拙者がかわりに手紙を書いていたのだ。すまない…


 過ぎ去ったことにしばられ、未来の時間を無駄にすることはたやすい。


 だが、それは何も生み出さぬ。前に進むことができぬ。


 もうい1度、前を見ることを思い出してほしい。愛するということを


 思い出してほしい…         カイエン 』




お終いにするつもりだった一通だろう。


造花のそばの机の中から見つかった。


きっと。


この手紙は、何度も何度も書き直されたのだろう。


何時間もかけてようやく書き上げて。


何時間もかけて、渡そうと思って、届けられなかったものだろう。


正直な文章だとは思った。


ストレートで、そのまっすぐさが文章によくあらわれている。


だからこそ。


迷ったのだろう。


不器用な真面目さが、彼女をさらに苦しめてしまうのではないかと。


言葉が形として残るこの「もの」が縛るのではないかと。




「……」




言葉って難しい。


伝えるって難しい。


それでも。




「(…伝えたいときにいないってことだってあるし、ね)」




薄く開いた唇を固く閉ざして1人、ロック、と彼の身を案じた。









 +









カイエンも無事に合流し、今後の動きについての話になった。


ヴァーユがコホンと咳払いをし、改めて今後について切り出す。


枯れた木の枝が火に舐められてぱちりとはじける。


全員の顔をチロチロと明かりが揺らした。




「カイエンさんが確かマランダ方面に行ってくれたんっすよね」


「うむ。そういえばマランダでガウどのに会ったでござる。


 ケフカを倒すため強くなる、と言ってどこかへ…」


「なら、ガウも無事なのね」


「それで、ガウはどこへ?」




エドガーの問いにマッシュははっとした表情になった。


それに頷きかけ、カイエンは「きっと獣ヶ原でござる」と答えた。


彼らがガウと出会ったのもそこらしく、ガウの所在については


心当たりがあるとのこと。


ガウを見つけるまでそう時間はかからないと感じた。




「ならば、向かうは獣ヶ原か……」


「獣ヶ原というと…飛空艇で北西に少しだな。明日には着く」


「……」




はぐっと一呼吸入れて、話を切り出した。




「ねぇ、相談があるんだけど…」









 +










熱気があたりから立ち込める。


額から垂れる汗をぬぐうと、レイヴを握る手を少し緩めた。




「どうぞ」


「あ、あぁ、サンキュ。トールも飲んどけよ」




はい、とトールは答えた。


渡されたポーションを受け取り、ごくりと喉をならす。


トールも長く伸びた黒髪が今回ばかりは鬱陶しいようで


適当にこしらえたらしい髪飾りで器用に一つにまとめていた。


伏せめがちな瞳がロックを映し、トールは唇をかんだ。




「少し休みましょうか」


「いや、別に俺は……」


「駄目です。今日は朝からずっと動いてます」


「大丈夫だって」




先を急ぎたいという気持ちがひしひしと伝わってくる。


目的のものは目と鼻の先だ。何より…




「(この人が、一番に求めていたものだから)」




焦るのだろう、と。




「すみません」


「ん?トール何か言った――」




普段はおとなしいトールがぐっとお腹に力を込めて話した。




「――バッカじゃないの…?? 何、目の前のお宝に目ぇ眩んでんだよ!


 そんなんだから、足滑らせてトラップ引っかかったり、


 モンスターに致命傷追われたりすんじゃないの!?もっと頼れよ!」


「…、…!」




まくし立てたトール。初めて見るその様子に吃驚した反面


どこかとかぶって見えて、「これは重症だ」と


思うほどだった。


吐き捨てるように叫んだトールはそのまま崩れ落ちるように


額を地面につけるものだから、正気に返ったロックは


慌てて彼女の土下座を止めに入る。




「すみませんすみません…本当に、言いすぎました」


「いやいやいやいや、俺こそ、ごめん!」


「謝らないでください。こんな時、さんなら


 何て言うかなって思って……つい…」


「あ……」




なら。




『 ロック… 』




なら。




『ねぇ、ロック?』




なら…。


いないはずなのに、頭で声がなる。


一年間、彼女には合えてないはずなのに、声も、姿も確認できてないのに


それなのにきっとどこかで彼女は生きててくれているとさえ思う。


重症だ。


瞼を閉じればちらつくのは“彼女の面影”だ。


なら、“彼女は――…”




「悪い、トール。嫌な役させちまったな」


「いえ…」


「休もう」


「…!」


「ごめん、俺も余裕なかったよな」




口に出してみてわかる、余裕のなさ。


自分自身の迷い。


問い。


答えは出ない。


でも。


願っていた。









伝説の秘宝が見つかった時、自ずと答えは出るはずだ、と。














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あとがき

110話目です。 やったね。

少しシリアスっぽくなってきましたね。
さくさく進んでしまうところだからこそ
大切に書いてあげたいものです。
ということでぽちり (殴)
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