Angel's smile


















今まで裏切ってきた数だけ力になりたい――…















 約束 111
















少し熱めのシャワーを浴びる。


考え事をするとき、たまにしてしまう癖みたいなものだ。


長く伸びた桜色の髪が額、頬、顎と張り付き、一番伸びた部分は


女の体らしく膨らむ乳房まで届きそうになっていた。


もうすぐもあのすべての始まり…ナルシェから


そろそろ2年になろうとするのだ。


つまりはも間もなく22歳になる。


まるで伸びていく髪の長さが月日が立つのを物語ってくれている。


張り付いた桜色の髪の隙間からはその月日とは関係なく


消えることのない数々の火傷跡や傷跡がちらちらと見えた。




『綺麗な色だな…』




耳元で彼の声がなる。


その度にどこか胸が高鳴り気分は高揚しそして安心する。





彼の声はあの時。


世界が引き裂かれたあの時、自分の名前を呼んだあの声が最後だ。


それからはこんな風にふとした拍子に耳鳴りがする。


それだけで勝手に安心してたりする自分についつい苦笑いをしてしまう。


重症だ。


なんて。


でも。




「(支えになってたんだ)」




彼の存在が。


顔を合わせれば喧嘩ばかり。


本当に些細なことで言い合って、子どもの喧嘩だって


周りからは言われるけど、でもやっぱりなくなるのは寂しいらしく。


こんな風に一人になった時、ふとした拍子に思い出す。




『何かあったら、俺に言えよ』




何度も助けられたから。


何度も心が折れて。


弱い自分が味方して。


仲間さえも裏切ってきたのに。




『 僕、また皆と一緒にいてもいいのかな? 』


『 あぁ、勿論さ 』


『 もう一人で頑張らなくてもいい? 』


『 あぁ。……今までよく頑張ったな 』


『 ―― 』





それでも。


彼はずっと信じてくれた。


こんなに弱くて強がりな自分を。


何度も許してくれた。




「(次は――)」




自分の番だ。


自分が信じる番だ。


力になる番だ。





キュ、と音を立てて蛇口を占める。


ぽたぽたと水滴がしたたり落ちる。


うっすらと開いた瞼からは力強い褐色の瞳がのぞいた。


決意に満ちた、力強い目だった。




「――うん」









 +









飛空艇から見る景色は海、島といったものから山脈といった


ものになってきた。


目的地に近づくにつれての表情が思いつめたものになっていく


ことに気づいて、セリスはそっと歩み寄り声をかけた。




「考え事?」




選ばれた言葉は気のきいた人ことなんかじゃなかった。


は「んー?」と曖昧に返しまぁね、と返事をした。


セリスも深く聞いていいものか躊躇い、隣で景色を見下ろす。




「ロックのことでしょ」


「…ええ」


「正直ね、僕もわからないんだ。本当にこれでいいのか」




この選択が正しいのか。


ちらりと盗み見た横顔は少し震えているようにも見えた。


決意を固めているような、そしてその反面


不安を押し殺しているようにも見えた。




「自分の気持ちとか、それをどうしたいとか…


 本当に分からないんだ。でも、これだけはってのはわかる。


 ロックの力になること。レイチェルとの約束を守ること」




それだけだよ。とは語った。


それ以上は何も答えてくれなかった。


何がロックの力になるのか。約束とは何なのか。


彼女はわかっているようだったけど、何一つ聞くことはできなかった。




「着いたぜ」




舵をとっていたセッツァーが一言告げた。


見下ろせば星形に並ぶ山脈があった。


ここだ。ここの奥にロックはいるのだと。




「行こう」




誰かが言った。


合図だった。









 +









息が詰まりそうなほど狭く感じる四角い空間。


小さな窓がひとつ。


光が差し込む。


そこから見える三日月が余計寒さを感じさせた。


冷たい。


そんな印象さえ受ける。




「もう少し…もう少しで会える」




三日月に照らされて少女が指を重ねて喜んだ。


そして。




「ごめんなさい、




自ら犠牲になることを選んだ親友を想って涙を流した。














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あとがき

111話目ですね。ぞろめっ。

沢山の閑話としてしました。
それぞれはどんな気持ちなのかねぇ。
一気に書き上げてしまいたいところです。
ということでぽちり (殴)
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