Angel's smile


















失う、支え――…















 約束 112
















蘇生魔法。


幻獣界において、否、魔導を使えしものはその皆が全知している


言わば禁断の魔法である。


一度死んだ人間をよみがえらせることなどどの時代であっても


許されたことではない。


ましてやなんかが使いこなせる魔法ではないのだ。




「(そんなこと、わかってる。)」




でも、は見つけてしまった。


本当に偶然だった。


探すつもりなんかじゃなかった。


あの日、あの時。


サマサの村で兄のとともに書庫にさえいかなければ。


あの日雨が降らなければきっと寄らなかったし、


あの日彼女の夢を見なければ…。




「(考えだしたらきりがない。――でも)」




僕は見つけてしまった。


その手に取って、読んでしまった。


記憶力のいいが呪文を忘れないわけがない。


ましてや“約束”に関することであればなおさら。




洞窟をさらに奥へ奥へと進んでいく。


奥に進むにつれて真っ赤に燃え上がる溶岩が道を阻むように


増えてきたように感じる。松明を持つエドガーを先頭に、


セリス、と続いてあたりを捜索する。


残りのメンバーはというと、ガウの捜索にカイエンとマッシュが向かった。


の相談はガウの捜索に加え、ロックの捜索も進めたい


といったものだった。


突然の申し出に一同が騒然としたが、誰も断るものなんていなかった。





フェニックスの洞窟。


永遠に死ぬことのない鳥、不死鳥と呼ばれるフェニックスが


眠るとされている洞窟だ。


道は険しくこの地に生息する獣であってもごろごろ


屍が転がっていることから、生息しにくいことが見て取れた。




「本当にこんなところにロックが?」


「ほぼ間違いないと思う。獣たちのまだ新しい残骸が残ってるし」


「そうね、それにさっき野宿した形跡もあったもの…」




近づいてんじゃないかしら、とセリスは話した。


溶岩が近いせいか温度も中々に高い。


エドガーは袖で額に流れる汗をぬぐってそうか、と話した。


熱さにクラりとめまいがする。しっかりと水分補給をしていないと


すぐに熱中症やら脱水症状を起こしてしまいそうなほどだ。


足場は悪い。決して人が通る道ではない。それでも。


この先に彼はいる。




「…??」


「どうしたの、さ―っ」




セリスの言葉はの視線を追うことで失われる。


はヤツを射止めた瞬間ロッドを片手に詠唱を始めた。




「レッドドラゴンだ――!」


「8竜のうちの1匹だな…、こいつも」


「あぁ、僕が封印する」




… ブリザガ …




一気に氷結する高等魔法。


油断していたのか直撃し、体勢を崩させることは十分だった。


遠方からオートボウガンを構えるエドガー。彼のそばにすっと影が落ちた。




「借りるよ、」




そう耳元で聞こえたかと思うと、次の瞬間今となりにいた人物は


大地を強く蹴り、自身が腰にさしていた長剣を振り上げていた。


その身のこなしの速さ、剣技の美しさにセリスは見とれてしまうほどだった。




「(なんて…)」




最前線で戦うのはだ。


普段は後方からの援護魔法ばかりだった彼女が、今回は


進んで最前線へと繰り出した。しばらく沿線は他の人に託していたため


ブランクがあるはずなのにその動きは見とれるほど隙がなく。


むしろ、美しさすら感じた。




「(儚いんだろう)」




その姿は消えてしまいそうなほど。


帝国時代をどこか思い出させるその軽やかな動きは、


その時代を共に生きたセリスを不安にさせるには十分だった。


エドガーの放ったオートボウガンを華麗によけ、それどころか


もっともダメージが大きいであろう急所に当てるように誘導した。




ギャアアアアア――




レッドドラゴンの地を裂くような悲鳴にセリスははっとなる。




さん―!!!」




ドラゴンの悲鳴でどす黒い血がぼたぼたと垂れた。


その黒さにまぎれての腕に一線、赤い傷を見つけたからだ。


爪だ。




… ケアルラ …




「サンキュ、セリス」




物おじしないは剣を逆さに持ち、真上から脳天めがけて


振り下ろした。顎から崩れ落ちるレッドドラゴン。


は血を蹴り後退し、すぐさま魔封の詠唱を始めた。


呼吸は荒い。けれども最後までしっかりと紡ぎ終えた。




… 封印 …




光が消える。するとドラゴンの姿もろとも消えていた。




「これで2匹目、か…」


「こんなのを後6体も…」


「自分でまいた種だもの。しょうがないよ」




エドガーに借りた長剣を回収し、くるりと慣れた手つきで回して


血を薙ぎ払った。残りはすっと布きれで拭い柄の部分を


エドガーに向けて返す。




「エドガーも、ありがとう」


「いや。…それより大丈夫なのかい?」


「へ…なにが?」


「いや…」




違和感。


エドガーも、そしてセリスも感じていたことだ。


わざわざ前線に出ることのないが、剣を持つなんて。


きっと。




「(彼女の中で、支えが失われ始めてる)」




エドガーはそう感じた。背負おうとしているのではないか。


でも、何を。




「僕なら大丈夫だよ。先を急ごうか」




にへら、と笑った。









頼りなく、笑った。














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あとがき

112話。タイトルを変えてます。

沢山悩んで、でもしんぷるがええかなぁと。
「約束」です。あちらこちらの番外編のネタも
少しづつ拾いつつ、すすめていきたいですね。
ということでぽちり (殴)
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