Angel's smile


















これは、約束だから――…















 約束 113
















「ここが…」




開けた場所に出た。


その中央には今は亡きガストラ皇帝が隠したとされている


あるものが保管されていた。それはロックが喉から手が出るほどに


追い求めていたもの。




「これ、ですか…?」


「あぁ…はるか昔、フェニックスは自らを石にかえたという伝説がある。


 やはり本当だったんだ…」




生まれ落ちたばかりの赤ん坊を扱うようにそっと、手に取った。


そのぬくもりを手のひらに感じながらほうっと息を吐いたとき。




「ヒビが…」


「!」




トールが控えめに覗き込む。


確かに横に一線、亀裂のようなものが入っていた。


世界が引き裂かれた際の影響を受けたのか、あるいは。




「ロック!」




いつもの、耳鳴りかと思った。


だから一瞬反応が遅れた。


彼女の声に。


本当は、すぐにでもその顔を見て彼女の安否を確認したかった。


でも。


その時はしなかった。


否、できなかったんだ。




「みんな!!」




ロックは彼女を含めた“仲間”を一瞥した。


誰にも言葉を発させないように、紡ぎ続けた。


それはどこかで彼女を拒んでいた。




「やっと見つけたんだ。魂を蘇らせる伝説の秘宝…」


「それは、魔石?」


「……」




は目を伏せ唇を閉ざした。




「あぁ、でもヒビが入ってる。これじゃあ奇跡の力を起こすことは


 できないかもしれない」


「ロック、あなたレイチェルを…?」




あぁ、と頷いたその眼は強い決意に満ちていた。


落ち着かない感じ。ここから逃げ出したい。そんなやり場のない感情。


それでもは逃げなかった。




「俺はレイチェルを守ってやれなかった。真実を失くしてしまったんだ


 だから、それを取り戻すまで俺にとっての本当のことは何もない」




一言一言が胸に刺さった。




『 僕、また皆と一緒にいてもいいのかな? 』


『 あぁ、勿論さ 』


『 もう一人で頑張らなくてもいい? 』


『 あぁ。……今までよく頑張ったな 』


『 ―― 』




フラッシュバック。


都合よく守ろうとする自分。でも、違う。


ロックの言葉こそが真実だ。


自分が何をするべきかもよく分かっている。


なら、大丈夫だ。


それを後は実行するのみ。




「行くのか、コーリンゲンまで」




でもなんでだろう。




「(嫌いになれないんだ…)」




その眼が自分を映してくれなくても。


約束を果たすことで自分を一生見てもらえなくなっても。


そんな可能性だってあるのに。


それでも。




「(好き、なんだ)」




好きなんだ。


もう、だめなんだ。


彼の瞳は自分を映そうとはしないのに。





僕はついつい銀を追ってしまう――。









 +









俺だけで行く。




と彼は言った。


他のメンバーは二つの返事で頷いた。


誰もが渋い面持ちだった。




「……」


さん、」




彼の背中が小さくなった頃。


そして、コーリンゲンまで送り届けた今、ガウ探索組に


合流しようかという話が進んでいたころだった。


セリスが意を決したように話しかける。




「行かないの…」


「行かない」


、」




それはあまりにも即答で、迷いのない返事だった。


それには流石のエドガーも口をはさむ。


いつまでたっても窓から外の様子を見下ろすだけで


動くそぶりを全く見せない彼女に、異変を知る二人は


少し焦っているようにも見えた。


ロックの影がだんだんと小さくなっていく。




「それで、後悔はしないかい?」


「後悔?」


「今日の君は明らかに変だ。ロックのことだろう」


さん…」




トールも心配そうにを見つめた。




「…そばにいなくて平気かい?」


「……」




は薄く開いた唇をぎゅっと結んだ。




「だから、何度も言ってるだろ。行かないって」




――みんなと一緒に、獣ヶ原には。




そこまで聞いて一同騒然とした。


くく、っと笑う彼女はいつもの彼女だ。


子どもっぽく悪戯に笑ってそれからストールを巻き直す。




「ずっと考えてた。思えばぼくは仲間を裏切ってばっかりだった。


 何度も裏切って傷つけてきた。仲間も自分も。


 今回もさ、自分なんかって思ってたところはあったんだ。正直」




でも。


それをしないと、胸張って言えるのは。




「ロックと約束したんだ。それでも仲間でいていいって」




1人で頑張らなくていいって。


だから、大丈夫。









「この約束は必ず守るよ」














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あとがき

113話ですね
次回、少し山場になるかと思います。
ここを書きたいがために温めてきたといっても過言ではないですからね
今からワクワクです。
むふふ( *´艸`)
ということでぽちり (殴)
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