Angel's smile


















約束を果たそう――…















 約束 114
















コーリンゲンの町。


ここにが訪れるのは実質三回目になる。


一度目は帝国の任務として。


二度目はたまたま仲間たちとの旅の途中に。


そして、今日がそうだ。


どれもいい思い出なんてかけらもない。


自身の罪の重さを目の当たりにする云わばトラウマのような場所だ。




「……」




一歩一歩と足を進める。町の外れにある屋敷。


そこの階段を下りた場所でレイチェルの遺体は保管されている。


確か二回目に訪れたときはロックが送っているのであろう


赤いバラが所狭しと飾られていた。


きっとロックは直接その場所へ向かったはずだ。


伝説の秘宝の効果を確かめるために。




ドアノブをそっと開ける。


階段を下りるとあの頃と何ら変わらない姿で眠る彼女がいるんだろう。


でも、は下りることはしなかった。


2人の。


ロックとレイチェルの再会となる日だ。


自分なんかが立ち入っていい空間じゃない。


だから。




「(ここで…)」




は落ち着かせるようにゆっくりと体内の息を吐ききった。


吐き出した空気に乗って不安も吐きだせるように。


この日のために何度も何度も繰り返し確かめた魔法だ。


今までのどんな魔法よりも、確実に、丁寧に。




『 ねぇ、お願い。ロックに伝えて!私は……私は……     』




下の階からは「どうして、」というロックの声が聞こえた。


きっとひびが入っていたせいで反応がなかったのだろう。




『 ???………伝えるなら自分の口で言え、そのロックって奴にな 』




は自信を落ち着かせトランスを行うと


まるで祈りを捧げるように指をおり、重ねた。




「(さぁ、レイチェル。約束を果たすよ)」



















「どうして、」




ロックが思わずつぶやいた。


伝説の秘宝だと聞いていた。


その噂を聞いて、これが最後の望みとまで考えた。


ひびの入ったフェニックスの魔石はレイチェルにかざしても


輝きを放つどころか、何の反応も見られなかった。




「(くっ…やっぱり、ヒビが……)」




思わずレイチェルへとかざしていた手が震えた。


絶望し、諦めかけたその時。









背中から温かいものに包まれるような感覚を覚えた。









思わず目を見開くロック。


お日様の光を背中でいっぱい受けているような感覚。


すっと2本の白い腕がかざした魔石を包むように


後ろから伸びてきた。包まれる。




振り返るが誰もいない。


それなのに、自身の手を覆い包み込んだその光は


魔石のヒビを埋めるように光の泡となって消えていった。









… キン …









魔石は形を取り戻したかと思いきや砕け散り、粉と化した。


指隙間からさらさらとこぼれていく。


思わず溢さぬようにすくおうとするものの、


次の瞬間にはまるで光の中に溶けるように消えてしまった。




「あ……」




一瞬の期待。


それが簡単に覆される。


ロックは奥歯をぐっと噛みやり切れぬ気持ちでいた。


握りしめたこぶしが彼女が眠るベッドのシーツを乱す。




その時、何年振りかに聞いた彼女の声がしたんだ。














「 ロック 」














思わず名前を叫んだ。


その手を握り締め、冷たく細い彼女の指を確かめた。


その指に自分以外の体温が戻りつつあるのを。


涙がうっすらと浮かんだ。


彼女の瞳が自身を映している。


それだけで震えが止まらなかった。




「ロック、会いたかった。お話ししたかった…!」




俺もだ、というかのように彼女の名前を呼んだ。


彼女は弱弱しくも、凛とした声で言い放った。




「フェニックスが最後の力で少しだけ時間をくれたの。


 でもすぐにいかなくてはいけない。だから…あなたに言い忘れたことを…」




最後の言葉になる。


そう知ったとき全身が粟立った。


それでも耳は一文字もこぼさないようにと彼女に傾いていた。




「 ロック…私、幸せだったのよ。


 死ぬ時、あなたのことを思い出してとても…とても、


 幸せな気持ちで眠りについたの。


 だから…あなたに言い忘れた言葉… 」




レイチェルが微かに手を握り返したのがわかった。


それだけでどんなにうれしいか。


それだけでどんなに胸が締め付けられるか。




「これであの子との約束を守れる。あの子が叶えてくれた。


 ロック……  ありがとう  」


「レイチェル!」




彼女を覆う光が強みを増した。


別れが近い。そう察した。


そのことを現実のものにするようにレイチェルは言葉紡ぐ。




「もう行かなきゃならない。貴方がくれた幸せ本当に、ありがとう…


 この私の感謝の気持ちで、貴方の心を縛っている


 その鎖を断ち切ってください。貴方の心の中のその人を愛してあげて」




最後に、と続けた。




「私の大事な親友を…をどうか守ってあげて…」




優しくふわりとほほ笑んだ。


最後の、最後のほほえみだった。




「 …… フェニックスよ…よみがえりロックの力に! 」




キン。


光がはじけ飛ぶ。


思わず目がくらんでしまった。


くっと目を閉じた次の瞬間、今まで手の中にあった


彼女の指先は感じられなかった。


光が消えて、彼女は逝ってしまった。




「レイチェル…」




今まで彼女の手があった場所には魔石が一つあった。


温かい。


ヒビなどは完全に修復され、温かな手触りがあった。


フェニックスの魔石だ。


つっかえていたものが一つ一つほどけていき、息ができる感覚。


そのぬくもりに触れていたとき、先ほどの背中の温かさを思い出した。









…?」














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あとがき

114話更新です。

二日間で一気に書き上げたな、という印象です
どうでしょうか。少し読みにくいですか?
108からは連続で書き上げていますので
展開の速さを感じましたら是非コメントくださいね。
ということでぽちり (殴)
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