Angel's smile


















結局蘇生魔法は、使わなかった――…















 約束 115
















ドアを一つくぐり部屋の外へ。


時間の感覚など等に忘れていたが橙に染まった空を見上げて


日も沈み、今日も終わろうとしている頃合いなのだと気づく。


この時間帯は寂しくなる。


別れの時間だ。


そんな気分にさせる空気。冷たさ。温度。


ぽつりと一人取り残されたような気分になる。




「はぁ、」




思わずため息を一つ。


長く。


細く。


千切れそうになる胸を必死につなぐように吐く。


そして塞ぐ。


結局。




結局、蘇生魔法は使わなかった。


最後の一秒まで悩み続けたのに。


結局、行ったのは蘇生ではなくお得意のヒーリングだった。




「……」




遠くで鳥がなく。


は村はずれの土手に座り込んでいた。


足をぶらりと投げ出して、村をぼぉっと眺める。


村人のそれぞれが帰路に立っていた。




「ごめん」




唇が自然と動いた。


言葉として紡いだ瞬間、頬に涙がこぼれた。


はぬぐうことはしなかった。




「生き返らせてあげられなくて、ごめん」




蘇生魔法は使わなかった。


それは、約束を守るためだ。




この世界で一番大切な彼とした約束を守るためだった。




―― 自分1人で背負わないこと。


―― 1人で傷つかないこと。




誰かの幸せを願った時。


は簡単に命を差し出せる。


彼女の救済には自棄が含まれていた。


大切なもののためならばいくらでも代償をおえた。




だからこそ帝国兵として自ら人を殺める道を選べた。


だからこそ何度も仲間から離れようとした。


だからこそ自分1人で戦おうとした。




それが、の「大切なものの守り方」だった。




最後まで迷っていた。


禁忌の法を犯して。


自分をまた犠牲にして誰かの幸せを成り立たせる。


でも。


そうすることは。


レイチェルを生き返らせることが、自身の命と引き換えならば。




それは立派な“自己犠牲”になるって。




ロックとの約束を。


破ることになるって。


警告がなってた。


ざく、ざくと土を踏みしめる音が近づく。


獣ではない。人だ。


けれどもそれは今のにとって獣より遠ざけたいものだった。


そでで慌てて涙をぬぐう。


顔をそむけた。




「少し、話すか」




ロックだった。


彼は一瞬だけ、反応を拒む彼女を盗み見た。


触れると彼女が抱えている沢山のものが弾けてしまいそうだった。


彼は隣に座った。


同じように村を見下ろす。


人気はほとんどといいほどない。


気温もだいぶ落ちてきた。




「レイチェルと話をしたんだ」


「…」


「レイチェルの言葉も、ちゃんと聞けた」




静かに、話をしていく。


はそっぽを向いたまま、微かにうなずいた。




「幸せだったって」


「…」


「ありがとう、だって」




がっと目頭が熱くなった。


肩の荷が下りた感覚。


約束、ちゃんと守れてたんだ。




『ねぇ、お願い。ロックに伝えて。私は……』




幸せだった。


ありがとう、ロック。




「(言えたんだ)」




3年前の音声が耳元でなる。


あの時聞いたそのままの音声で。


伝わったんだ。


それが確認できて、それだけで報われた気がした。


よかった。


よかった。


本当に……




「よかった……」




思いが涙と共に溢れる。


その後も何度も何度も「よかった」と繰り返した。


涙を指で拭う。


指ではおさえきれず、手のひら、両手のひらと。




「よかった…ほんとに、よかっ…、…」


「うん」




左手を彼女の背中へと伸ばす。


触れる寸前、一瞬ためらった。




『 貴方の心の中のその人を愛してあげて 』




ふとよぎった言葉が背中を押した。


ロックは彼女の華奢な肩をそっと引き寄せた。


抵抗もなく簡単に自身の首元に彼女の頭が埋まる。


頬で彼女の桜色の髪をおさえながら、その手を握った。




「ありがとう、




握りしめる手に力が入る。




「あー…、一回しか言わないからよく聞いてくれよ」


「…?」




改めて言葉にすると恥ずかしいものだ。


それも、この2人の仲だとなおのこと。


は涙をぬぐって少し赤みがさす潤んだ瞳をロックへ向けた。


抱き寄せていたせいで吐息がかかりそうなほどな距離だった。


ロックはカァっと頬を赤らめ、それを隠すように額をくっつけた。




「守るよ。お前も、お前が大切にしたいものも全部」


「ロック…」


を、俺に守らせてくれ」




は目を閉じて少しうつむいた。


しばらくの沈黙。


頼ることが何より苦手な彼女だ。


弱くて、強がりな彼女だ。




「…出来るの?そんな約束」


「出来る。いや、やってみせる!」


「やってみせる、か」


「なんてったって、世界一のトレジャーハンター、ロック様だぜ?」




唇の隙間から笑いがこぼれた。


ふふ、と彼女が笑う。


それがたまらなく好きだなって思った。




「…半分だけな」


「は?」


「全部はダメ。でも、半分ならいいよ」


「なにそれ」




お前らしいけど、と彼は笑う。


子どもっぽい悪戯な笑みを浮かべて、は笑った。




「 僕の人生を半分、ロックにあげる 」




その意味がわかった時、ロックは大きく目を見開いた。


髪をなぞっていき顎に手を添えた。


重なり合った瞬間、胸がきゅっとつまった。









「反則な、それ」














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あとがき

115話です
とっても甘く仕上がりましたね
もうとてもやり切った感があります。
やったぜ!っていう
ということでぽちり (殴)
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