Angel's smile



















僕は、大切なものを守るために――…















 守りたいもの 118
















優しく優しくそれに触れた。


壊さないように。割れ物を扱うように。


そっとそっと。


今度は失くさないように。




…」




名前を呼ぶ。名主はといえば「ん…」といいながら


すやすやと寝息を立てていた。安心しているのか


もうすっかり深い眠りに誘われており、出会ったころの


人前では一睡もしなかった元帝国兵士とは全く別物であった。


2年の月日は彼女を柔らかく、穏やかにさせた。




「……」




頬をつんとつついた。


受け入れているからこそ触らせてもらえる。




「ったく」




どんなに悪態をつかれようと寝顔は無防備でかわいらしい。


腕の中で眠る彼女のためにタオルケットを手繰り寄せてやる。


体に残る様々な古傷、火傷跡、そして闇が潜む部分の


すべてを包み込むように。


守るように。




「…」




瞼を閉じる一瞬の視界にとらえた自身の手のひらには


うっすらと赤黒いしみが浮かび上がっていた。









 +









宿屋を後にした二人は伝書鳩に別ルートを進むセリスらに


ニケアでの合流を、と手紙を飛ばしてモブリズへ向かった。


ティナやが残るその場所にの口から


向かいたいと申し出があったのであった。


ロックは二つの返事でそれを了承した。




日が昇るころコーリンゲンを出発し、休憩を交えながら


モブリズについたのは日も暮れようとしたころだった。




橙の空を仰ぎながらは野生のモンスターを切りにかかる。


もうこの頃の彼女はお得意の魔法ばかりではなく、先ほどの町で


購入したソードを腰に携えるようになっており、その姿からは


「闇の力」のせいで自身の魔法のコントロールが少しずつ


きかなくなってきていることを示しているようだった。


彼女の様子を案じつつも、ロックは彼女がやりやすいように、と


あえて口をはさむことはなかった。




「兄さん!」




海岸付近で食材調達をしていた


妹の声を聞いて顔を上げ声の主を目で追った。


そして自身と全く同じそれを映し、いつものように薄く微笑む。




「おかえり、




ロックさんも、と付け加える。


憎たらしさが瓜二つの片割れのほうを見やると


彼は相変わらずのすまし顔でほほ笑んだ。




「久しぶり。さん付けはいいっつってんのに」


「気が向いたらなおしますよ」


「相変わらずな、そーいうとこ」




やや呆れたように肩をすくめるロック。


が薄く細めた瞳でに違和感を感じ取った。


薄く開いた唇が何かを紡ぐかと思いきや、ぐっと飲み込む。




「ふーん…」




小さく。


聞こえるか聞こえないかわからないほどの小さな音で


それだけを呟きはいつもの笑顔に戻して




「ティナも呼ぼうか。最近ちょっとまた色々あってね」




と話をざっくりと切り替える。


要約すると子どもたちの中でも最年長のカップルが


妊娠したとのこと。しかしこのご時世これからの自分たち


の未来さえも危うく不安ばかりだというのに子どもの


ことまで考える余裕はあるのだろうか、と。


いつケフカに焼き殺されるかわからないこの世の中に…。




「こんな世の中だからこそこれから生まれる命を素直に喜べないってか」




ぽつりとつぶやく。


大地は引き裂かれ、町は焼き払われ、獣も増えた。


今この瞬間にもケフカは裁きの力を使い誰かの命を奪っている。


怯えて暮らさないといけない世の中なのだ。


おのれひとりの命を守ることすら危ういというのに。


ましてや新しく生まれる命など…。




「(一刻も早くケフカをどうにかしないとな…)」




ずきり、と肩が痛む。


顔には出さずにやり過ごす。


この闇が全身に広がる前に。




「ティナ…」


…私、ずっと悩んでることがあるの」


「悩んでること?」


「ええ、私は」




少しの沈黙。


選び抜かれた言葉。




「なんのために戦えばいい?」




それを聞いた以外の二人ははっとなり口をつぐんだ。


戦う理由。


それをに問うティナ。


自身にさらに問いただす。


そうだな、と少し思慮して静寂の中彼女は切り出した。




「ごめんねティナ。それは僕にはわからない」




それから続けた。




「自分しか、わからないんだよ、ティナ」




答えを教えないのは優しさだった。


否、実際自分自身でもどう答えていいのかわからなかったかもしれない。


共依存しあってた関係。


お互いがお互いの道を進みはじめた。














←Back  Next→
よろしければポチリお願いします。 ぽちり (殴)
inserted by FC2 system