Angel's smile
きっと答えは簡単なもの でも見つけることは苦難――…
地下組織リターナー 18
「コーリンの奴に子供がおったとは…」
ククッとのどを鳴らすようにバナンは笑った。
おかしくて仕方がないといった笑い方だ。
ほう、と息を吐くと真面目な顔になり、ぼそりと呟く。
「あの子に帽子を渡した…。それはあの子に“あれ”の素質があるということか…?」
夜が、明けようとしていた。
+
突然の事に驚いたロックは何度も目を瞬かせた。
ことの始まりはほんの数分前…。
時刻はリターナーの本部で一泊おいた朝。
丸一日眠りっぱなしのの様子を見に来たロックは、
左手の…一昨日自分がまいてやった包帯がそのままになっているのに気がつく。
ベットのそばにあったいすに座り、ロックはの腕へと手を伸ばした。
…その時。
スゥ…
の手がゆっくりと持ち上がった。
何かを探るような動作で指先が虚空を泳ぐ。
そして自身の手の平を握り締めたのだ。
吃驚しながらも握り返すと、が微かに身じろぐ。
そしてゆっくりと目を開いていき、の褐色の瞳がロックを映す。
ロックはほっと安堵した。
「…ロック、か」
「なんだよ、俺じゃ悪いかよ」
「…」
いつもなら帰ってくる悪態が来なかった。
天井を見つめて、ただ何事かを考えている様子だ。
おそらく記憶の糸を辿っているのだろう。
数秒そうしていたかと思うと、いきなりはっとなって上半身を勢いよく起こした。
「サウスフィガロ…!サウスフィガロに行かなきゃ!」
「っと…!落ち着けって…」
昨夜バナンに安静にしておくことをいわれたのを思い出して、
ロックは慌てて飛び起きようとしているを制する。
握り締めていた手に力を入れるとあっさりとが大人しくなった。
はグッと唇を固く縛る。
「…?サウスフィガロ…?この前近寄るなって言ったのはお前だろ?」
「………行かなくちゃ」
「…何かあるのか?」
「…」
二人の会話は微妙なところで噛み合ってはいなかった。
は追い詰められたような雰囲気で、
ロックはそんなから理由を探る。
しばらく無言のままだったは「すまない」と呟いた。
…これ以上はなすつもりはないようだ。
ロックは握り締めていた手を離して、包帯に手をかける。
「変えてやろうって思ったけど…必要なかったな」
「あぁ、怪我とかって寝ておきたら治るんだよ。僕」
「……………凄いな」
ロックは昨日に起きた事を思い出しながら、
やっとの事でといった感じでそういった。
が小首をかしげる。
そのとき、ロックが何事かを思い出したように「そうだ!」と言葉を呟いた。
「おかゆ作ったんだ…食えるか?」
「…作ったのか?…お前が???」
「なんか傷つくな、それ。他に作れる奴がいると思うか?」
「……………………………………そうか」
「期待通りの返答ありがとう」
長い沈黙の後の納得。
ロックは微苦笑気味に突っ込みを入れる。
ほかほかと湯気立つおかゆを小皿にとり、に手渡しながらロックは言った。
「俺だって長い事独り身なんだぜ?これくらい…」
「嘘吐き」
「(…。)…ん?」
「お前のような“良い奴”を女どもが見捨てておくはずが…」
「―――……っ!!」
思わぬ一言にロックが今手渡そうとしていた小皿が彼の手から零れ落ちる。
すぐ下に手を伸ばしていたが「おっと」と紡ぎながら受け取った。
急に様子が変わった彼に内心疑問を持ちながら、
はぼんやりと受け取ったおかゆをスプーンですくい、口へと運ぶ。
「うん、うまいよ」
は目を伏せる。
「(夢に出てきた女の人…雰囲気がロックに似てる…)」
ふぅ、とスプーンの上のおかゆの熱を冷ましながら、内心そんなことを考えていた。
ロックはぶっきら棒に席を立つと、種を返しドアノブへとへとかける。
エドガーが入れ替わるように部屋の中へと入ってくる。
一瞬顔を赤らめなが出て行くロックに対して疑問の目を向けたが、
の視線に気付き気分はどうだ、と尋ねた。
平気だよ、と返答する。
「…ティナは?」
「バナン様のところにいったよ」
答えが出たようだ、とに告げる。
は器を膝の上においてエドガーの言葉に相槌を打つ。
「君の答えを聞きたい」
その言葉を聴いて、がゆっくりと唇を動かした。
+
リターナー本部の入り口でバナンとティナが話していた。
バナンがティナに問いかける。
「我々の最後に残された希望になってくれるか?」
「はい」「最初からそのつもりだよ」
握り締めた掌には、希望というなの光が残っていた。
あとがき
早いですね、もう18話です
次でどうにかリターナー編を終らせるっ!!