Angel's smile
















待たせたね――…















城下町サウスフィガロ 22















「お前…新入りか?」




町を歩き始めて数十分後。


茶色の兵隊服に身を包んだ兵がに話しかけてきた。


は内心わくわくしながら、会話を続ける。




「は!本日付でこの任についたものです」


「そうか…じゃあいいことを教えてやる」




内心、にやりと笑みを浮かべる。


けれどもそれはあくまで心のうちだけの話。


は下っ端兵に成りすましながら「何でありますか?」と尋ねた。


今気付いた事だがこの兵は軽く酒が入っているらしい。


ほんの少し呂律に癖があった。




「この町の地下にな、女将軍が捕まってるらしいぜ?」


「(…ビンゴ)将軍…ですか」


「ああ。何でも…帝国に刃向かったらしい…」




馬鹿な奴だと毒をはく兵。


はふっとわいた怒りを気付かれないように自身のなかで消化して、


「よい情報ありがとうございました」と兵らしく敬礼する。


兵もうむと偉そうに頷いて、その場を後にする。


先輩面をする兵に限って早死にするんだよな…と


内心黒い事を考えながらは左手の感触を確かめた。


先ほどの会話中に盗み取った財布だ。




「(地下・(お金・)女将軍……結構手に入ったな)」




これでロックに褒め…


そこまで考えて首を振る。


不機嫌にぎゅっと眉を寄せた。




「(褒めてもらうためにやってるわけじゃないんだ!)」




そうだそうだ、と完結させて虚しくため息をつく。


中央の時計台に目を配らせ、時間を確認する。


…そろそろ時間か。


はもう一度ため息をついて、大きな家の方に足を進めた。









 +









帝国服を着ているだけで何の障害もなく家の中に入ることができた。


それも堂々と…。


中には数人の兵がうろついていたところを見ると、


先ほどの兵の情報は間違いないようだ。


二階に上がったすぐの所にいた商人と目があう。


は何事も無かった素振りで商人を横切る。




「おい…」


「…何も買わんぞ(…こっそりついて来い)」




一言だけ言葉を交わす。


一瞬だけ目を合わせると商人は目で返答する。


は手前の部屋のノブを引いた。









 +









部屋の隅に無造作に置かれた本棚。


が何人かの兵に聞いた情報からすると、この裏に階段が存在するらしい。


やや疑い気味に本棚の裏を覗き込むと、


そこには人が1〜2人通れる細い通路が合った。


は嬉しげに口角を持ち上げる。





ドアの隙間から商人がこの存在に気付いたかどうか確認してから、


ゆっくりと階段を下りていく。


カツン、カツンとブーツが音を鳴らす。


周りに兵の気配は無い。




「出てきていいよ。…多分」


「…ったく。多分ってなんだよ」




面倒くさそうに商人…ロックが突っ込む。


ケケ…と笑うは先ほどまでの雰囲気とはまったく別のものになっていた。


ロックはやれやれと肩をすくめながら今まで誰かから盗んだであろう、商人服を脱ぐ。




「…お前は?」


「まだいい。もうちょっと使えそうだし…」


「ん」




短い言葉でかわし、へと視線を投げる。


集合場所に時間より少し早いくらいにきたロック。


だが、がくるのもそのすぐ後でさほど待つことは無かった。


一言言葉を交えての意図を察してここまでついてきたロック。


視線に気付いたは余裕気に口の端を持ち上げる。




「何人かが教えてくれたけど、ここにいるんだってさ」


「…教えてくれたぁ?」


「こっちが下手に出れば簡単簡単」




の発言に慣れを感じ、ロックは「一回みてみたいもんだな…」と嘲笑気味に笑う。


長い廊下を歩いていると、ドン、と音がした。


一枚扉の向こうからだ。


当然二人の意識もそちらへと向き、耳を済ませる。


ロックがポツリと呟く。




「あいつ、見たことがある…。帝国の将軍……確か」


「…セリス」


「あいつか?お前が言ってたのは…」





は何も言わずに小さく頷いた。




『裏切り者はこうなるんだ!』





そうか、とだけ呟くロック。


隣で耳を済ませるの表情からは余裕気な笑みがきえていたからだ。


出会ったばかりのころと同じ無表情。


眉をひそめ、目を細めている。


はっと顔を上げると、ロックに上に隠れろ、とジェスチャーで伝える。





「(合図したら入って来い)」




そういってはドアノブをひねり、部屋の中へと入る。


中にいたのは二人の兵と長い金髪を持つ女性。


は一瞬で状況を把握すると、「何のようだ!!」と、


かなり気が立っている兵に敬礼をした。


女性の紫暗の瞳がうっすらとを捉え、睨みつける。




「は!交代の時間であります!!」


「…そうか。まぁいい、明日にはどうせ処刑されるんだ」




女に「今のうちに減らず口でも叩いているんだな!」と吐き捨て、


兵はと入れ替わるように部屋を後にする。


足音が遠のいていく…つまりロックはうまく隠れられたようだ。


残る兵はあと一人…。


は兵に歩み寄った。




「ん?どうした?」


「いえ、ただ少し……」




眠っていていただこうかと思いまして。


言うが早いかは呪文を唱える。




… スリプル …




兵の身体に力が抜け、その場にあったいすに力なく座り込む…


(…名○偵○ナンみたいな感じ)


女が怪訝そうな視線を投げる。




「どういうつもりだ?」


「さぁね、どういうつもりだろう?」


「!…その声、は…」




が壁を三回叩く。


それからヘルムをとり、目を向いて驚いている女にニコリと笑いかけた。









…さん?














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あとがき

22話アップですっ!
セリス嬢登場(´w`*)
このままのテンションでナルシェまでいきたいと思います!!
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