Angel's smile
















人を愛する事はできるのですか?――…















 ヒロガル キョリ 30















『貴方がいつか、人を愛したとき…きっとわかるはずよ』




貴方が残した最後の言葉。


答えはまだ見つかっていません




アイスルって何ですか?


いつかとはいつですか?


誰かとは誰ですか?




答えのない質問。


わかっているのにまた、


聞いてみる




私に…


この私が…









人を愛する事はできるのですか?









『もしそれがなんなのか…感じる事ができたとき、貴方はもっと強くなれる』




光が闇に溶けていく。


混ざり合って


飲み込まれた。




そしたら何が残るの?


何も残らない。


何かが変わるの?


何も変わらない。




ただ、




思いは縛れないから…




きっとまた起き上がれるはず。









… ほらね、 …



































名前を呼ばれた気がして目を覚ます。


ゆっくりと視界が広げられて、


そこに見慣れた銀髪がちらついて、


は無意識のうちに口元をほころばせていた。


ほっと安堵の息を零す。




「起きたとき…必ずロックが傍にいてくれるね」


「そう…だっけ?」


「…うん」




ロックは微苦笑しながら「どこか痛むところはあるか…?」とたずねる。


は一度目を伏せてからロックへと掌を伸ばした。


指先が彼の頬に触れる。




… ケアル …




「いや…俺のじゃなくてさ」


「いいの。見てたら痛いし…」


「…。それ、微妙につかい方が違うよな…?」


「そうだっけ…?


 あぁ、でもごめん…。完全には治らなかったみたい…」




名残惜しそうに見つめるは、


「魔力がまだ戻ってないんだろうね」


と付け加えた。


そして、自嘲気味に笑う。




「ハハ…。魔法が使えないんじゃ今の私はただの―――」


「ただの…









 “人間”だな」









はきょとんとロックを見上げた。


薄く開いた唇は何かを紡ごうとして、それを拒んだ。


言葉のかわりに泪が零れ落ちた。


はにかみながら、それをぬぐう。




「初めて…言われた。初めて言ってもらえた…!」




至極嬉しそうな声色だった。


窓から差し込む月明かり。


薄暗い部屋の中にヒカリが届いた。




帝国に服従していた自分。


帝国の犬と避けずまれ、


終いには帝国の兵器として扱われて。




大事なものを守るために。


大事なものを救うために。


大事なものを生かすために…




何時も自分を犠牲にしてきて




それなのに


こんな自分でも…




人間だって言ってくれるんだね。




「(すごく…温かい)」




年中雪が積もっているこのナルシェにいるのに。


温かいものに触れた気持ちになった。




ぽかぽか


ぽかぽか


ぽかぽか




「ティナをね、探しにいかなくちゃ」




紡がれた言葉。


ロックは小首をかしげながら、「ティナ?」と鸚鵡返しにたずねた。


眉を寄せ、考え込む仕草をする。




にとってティナはどういう関係なんだ?」


「…?あれ、言ってなかったっけ?…いとこだよ」


「へ?いとこ?」


「うん。私の父さんとティナのお母さんが兄弟なの」




…だったら、そういうこと…でしょ?


は淡々とした口調でそういって、微笑んだ。




寝起きのせいか、昨日の事のせいか…


の口調、雰囲気…その全てが柔らかいものになっていた。


自称だって“僕”から“私”になっている。


そのことにロックは気付かなかった…




「あっち」


「…?」


「はっきりとはわからないけど…あっちの方に微かだけど…ティナの魔力を感じる」




指差したのは壁。


だが、が言っているのはもっと遠くの事だろう。


ロックが確認した後、しばらく指差されていた腕が力なくたれる。


静かにが息を吐いた。




「ごめん…またしばらく起きないから…」


「ん。俺たちは俺たちで手がかりを探しておくから、今はゆっくり休めよ」


「そうする…。あ、ロック」


「?」




立ち上がろうとしていたロックを制するの声。


疑問の視線を投げると、目を細めていきながら言葉を紡ぐ。









「次に目覚めたときにさ…。ティナを一緒に探してくれると嬉しいな」









唇が完全に閉ざされる。


しばらくして規則的な寝息が聞こえてきた。


はじめに身に来たときよりもいくらか安心したような寝顔だった。


ロックはふ…と笑みを零す。




「あぁ、まってるよ」




そっと明かりを消して、部屋を後にする。


数分後、ロックはといえば別の部屋で机に広げた地図に目を落としていた。




今夜は三日月だった。


消えてしまいそうなほど細い氷輪が闇夜を照らす。









 +









息が詰まりそうなほど狭く感じる四角い空間。


小さな窓がひとつ。


光が差し込む。


そこから見える三日月が余計寒さを感じさせた。


冷たい氷輪。


目を閉じて、


また思うんだ。









あぁ、またあの夢か…って。









今までにも何度かあった。


私が帝国にいたときの夢。




暗くて、


冷たくて、


さびしくて。




黒いものがぐちゃぐちゃになる感じ。




そしてふと、視線を上げると当たり前のようにあの人が――――









…いない?









本当の夢の結末は、


本当の世界の終焉は…





なんだったけ?














暗転。




ぐるぐる。




黒。




ぐるぐる。




堕ちていく。




ぐるぐる。




ヒカリが飲み込まれた。




ぐるぐる。




全てが無になる。




ぐるぐる。









崩壊。









 +









「―――――っは!」




一気に覚醒する。


上半身を起こし、手は首かかっているペンダントトップを握っている。


開かれた目。


何かを探すように…


否、誰かを探すようにきょろきょろと視線を配らせた。




「大丈夫…ガウ…?」




割とすぐ傍から聞こえた声に、は一瞬だけ身構えた。


けれどもそれが自身の“仲間”のものだとわかり、ほっと息を吐く。


顔色は青く、目覚めは悪い。


はぐっと唇を噛むと冷たい床に足を落とした。




「まだ起きちゃダメ!」


「平気だ。傷は癒えた」


「ロックに見張ってろって、いわれた!ガウ、わかったって言った」


「………。」




ようするに約束をしたのだと…。


(見張るって…)


内心そんなことを考えながら、は思考を働かせる。


そして選び出された言葉は…









「じゃあ、ガウ。…頼みがあるんだ」









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あとがき

30話まで書けましたねぇ…早いです。
今回はかなり長めです
書いた本人吃驚の長さです
国語の授業のときにわかったのですが、
私が好む文は『韻文』というそうですね(あってるのか?)。
今回はそれがたくさんあったので量が増えちゃったんです…
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