Angel's smile
いるはずの人物がいないことに気付き、
セリスははっと目を見開いた。
「さんがいないっ!!」――…
ヒロガル キョリ 31
ヒュゥォォォォオオオオ!!
雪交じりの音なのか、それとも下から吹き上がる音なのか…
どちらにしても耳を塞ぎたくなるような強風が桜色の短髪ををかき乱す。
その髪の持ち主…はぼんやりと頭の隅にナルシェに始めて訪れた事を思い出しながら
雪で覆いつくされた地をざくざくと進む。
段々と上がっていく呼吸の中、吐き出されたと息は白くなってやがて消えていった。
『ああ、待ってるよ』
は家を出る前に適当に拝借してきたマントで口元を覆うようにしながら歩みを速めた。
+
「一人で行ってしまったということはないだろう………と、言いたいところなのだが…」
ため息をつくエドガーにセリスが後を引き継ぐように言う。
そわそわとしているガウのことなんてお構いなしだ。
「やりかねない…な。さんなら…」
「ガウ…」
なんせ、あのだから。
その場にいた全員がその単語を脳裏に浮かべて暗黙した。
きょどり…ガウが思わず声を零す。
あたりを軽く見渡したマッシュはロックの姿が見えないことに気づき疑問を口に出した。
「…そういや、ロックは?」
「さっき見に行ったけど…もうぐっすりと…。昨日は遅くまで何かしてたみたい…」
「…ガウ…あの……っ」
「そ…っか」
のことを問うのにロックの名が出てくるのは、
彼が一番“彼”のことを理解していると思うから…
そしてが心を許す数少ない人物の一人でもある。
そんなこと…今の彼らには知ったこともなかったのだが…
「探しにいきましょう!」
「やっぱそれしかねーよな…」
「だから、その…」
「では私とマッシュとセリスの三人で行こう。残りはここで…」
「うぅ…」
「…承知した」
二人とも納得のいかなそうに首を振る。
エドガーはコートを適当に羽覆うと、自分が先頭に立つようにナルシェの猛吹雪の中に足を踏み入れた。
後を続くセリスとマッシュ。
「…」
「…?どうされた、ガウどの…」
ガウは神妙な面持ちのまますっと立ち上がると、
一言もしゃべらずにある部屋のドアノブを捻る。
部屋をぐるりと見渡し、目的の人物を見据えて睨み付け…
そして…
「話を聞けーーー!!!!」
眠っているロックを叩き起こさんばかりに、シーツの裾を勢いよく引っ張った。
+
雪交じりの追い風にマントがジタバタと暴れる。
はそれに逆らうことなくその地に立った。
…先日幻獣を安置したこの地で…
そして、
「(…ティナ)」
ティナと別れたこの地で。
下から強風が吹き荒れる。
思わずしゃがみこんでしまいそうになるのを半ば強引に踏みとどまる。
そして、両腕を左右一直線上に伸ばし目を閉じた。
感覚器官のひとつを閉ざすことによってより研ぎ澄まされた集中力で、
目的のものを感じ取る。
時期にあれだけ吹き荒れていた風音さえも聞こえなくなっていくのを感じながら
ティナの存在を必死に辿っていく――――
「「――――見つけたっ!!」」
「…!?」
1つは勿論のもの…
そしてもう1つは…
「…ロック?」
ロックのもの。
どこか雰囲気が違うな、とぼんやり頭の隅で考える。
そしてそれがバンダナを巻いていないからということに気がついた。
…寝起き…だろう。
声もそれとなく寝起き独特の乾いていたし…
そしてそれは…
「…なんで黙って出て行った?」
怒りの色を含ませていた。
目に取れる怒気に当てられながらは眉を寄せる。
ロックの後ろにはエドガー、セリス、マッシュ…
…そしてガウが一触即発の雰囲気にひやひやしながら見つめていた。
「怒ってる………?」
「……そう見えるか?」
「…???」
は唇を硬く閉ざしながら思考をめぐらせて見る。
…暫くして、
「…あ、ガウから聞いてない……とか?」
とりあえず脳裏に浮かんだ文字を言葉にしてみる。
の発言にぴたりとフリーズする一同。
そして、全員の視線がガウへと向かう。
ガウはぐっと握り締めたこぶしを振り上げると力いっぱいに講義した。
「話を聞けーーー!!!」
+
「悪いな…さっき怒鳴って…」
「気にするな。怒鳴られるようなことをした僕のほうが問題でしょ。
…今度からはロックに言ってからにするよ…(多分)」
「おう、そうしてくれ」
「…………。
なぇロック…さっきから気になってたんだけど……頭にこぶが出来てない?」
「ほっとけ…!!」
「???」
「それよりお前………
いつから橋渡るの平気になったんだ?」
あとがき
遅くなってすみません…っ
31話目の更新です!
今回の話は番外編的なところでしたね。
あまり原作にはふれてない気がします。
次はフィガロのあたりを終わらせたいなぁ…なんて思っているのですが、
今回の[ヒロガル キョリ]…
ものすごく長くなっちゃいそうです…(泣)