Angel's smile
















まず君に“ありがとう”の言葉を――…















 ヒロガル キョリ 33















「ヴァーユっす。オレ、足と体力には自身があります」




つっても、今はこんなん何すけどね。


己の身体状態を指しながらヴァーユは自嘲気味に笑う。


そんなヴァーユを見て自分もそれを見習うように自己紹介をするトール。




「トール。特技は………魔法」




控えめに話す。


耳を隠してしまうほどに伸びた黒髪をやや鬱陶しそうにしながら


トールはぴんと張り詰めた空気に眼を伏せる。


、ヴァーユ以外は“魔法”という単語に過敏に反応した。




「さてと…この2人をどうするかだけど…。なぁ、エドガー。僕が勝手に決めて良いかな?」


「あぁ、2人が了承するのなら(強調)かまわない」


「なら、決定」


「相変わらずっすね…さん」


「……(こくり)」




ちゃっちゃと話を進めるはどこか楽しそうだ。


久々の知人に会えたことがよっぽど嬉しいらしい。


…勿論それを口で言うではなかったが…




「二人はさ、ここに残ってほしいんだよね」


「なんでっすか!」


「………(じっと睨む)」


「(久々に睨まれた…)聞けって。


 ここに残ってナルシェに残ってる仲間に近状を伝える中継になって欲しいんだ。


 ちょうどフィガロは中間地点っぽいし、お前らもまだ完治してない…。好都合じゃんか」




怪我の治療が最優先だしな。


は指を回しながら二人に示す。


イスの背もたれを抱くように座っているロックはふと思いついた疑問をへと投げた。




「それよりもさ、ナルシェでバナン様や住民たちを守ってもらうのはどうだ?


 話し聞く限りじゃ結構腕は立つんだろ?」


「それも考えたんだけどさ…。カイエンが…帝国の人間をかなり嫌ってたから……」




ふとが目を逸らす。


ヴァーユとトールは“元”がつくが帝国の人間だった。


それはここにいるやセリスとて同じ。


そしてナルシェから飛び立ってしまったティナも…


“帝国”のしてきたことを思えばそれは当たり前なのかもしれない。


それを理解しているからこそは、


2人にも…


勿論カイエンにも不快に思うことはさせたくないのだ。


神妙な面持ちでヴァーユがたずねる。




「カイエン…ってドマの……?」


「あぁ」


「……そういうことなら」「わかりました」




2人が顔を見合わせ、同時に了承する。


エドガー、ロックへと了解を求める視線を投げる


理解したところを見て、ほう、と息を吐いた。




「エドガー。もう1つお願い」


「珍しいな…。なんだい?」


「この部屋をさ、この2人に貸してあげてくれないかな…?…勿論雑用とか押し付けて良いからさ」


「(後者はともかく…)構わないよ。兵たちにも伝えておこう」


「!ありがとう!!」


「「ありがとうございます!」」




頭を大振りに下げて胴体部分の傷口を広げるヴァーユを横目に捕らえながら、


エドガーは、はは…と乾いた笑みを浮かべる。


それからふんわりと大切なものに触れるかのようにそっとの頭に手を落とすと、


王様へと表情を切り替えた。


これから大切なミィーテングがあるらしい。


時計へと視線を向けたは針が中途半端な位置に存在することに気づき、


彼が話が終わるまで時間を先延ばしにしていたことに気がつく。


「先に休んでいてくれ」と一言残して部屋を後にするエドガーに、


は口元に小さく笑みを零しながらため息をついた。




さん…。いえ皆さん…」


「…ん?」


「オレ、達…早くこんな怪我治して少しでも役に立てるように頑張るっすから…これからよろしくっす!」


「よろしくお願いします」




真剣な眼差しに当てられ三人はそれぞれ満足げに笑ってみせる。




「ああ、よろしくな!」









 +









闇にぼんやりと浮かぶ欠けた月。


晴天なおかげか月明かりが余計明るく感じる。


はみんなが寝息を立て始めたのを確認するとこっそりと寝室を抜け出し、


以前エドガーと共にきた屋上へと足を進めた。


階段を上り、天空いっぱいに散らばる星々に歓迎されながら、


夜風に当たり高ぶる感情を沈める。




「おや…先客かな……?」


「おっじゃねーか」




振り返る其処にはマッシュとエドガーの姿。


双方とも両手にグラスを持っているところを見ると、乾杯していたのだろう。


父に、


母に、


そしてフィガロに…


は沈黙する場にはっとなる。




「じゃ、じゃあ…僕はこれで……」


「っと……。どこ行くんだよ」


「いやいやいや…水差しちゃ悪いし。…うん」




やや瞳を伏せながら遠慮がちに言葉を紡ぐ


しかし言葉が続かず、えっと…と尻すぼんでしまう。


そんなを見て、エドガーとマッシュは声を上げて笑った。


脳裏に疑問符を浮かべる




「そんなこと無いって!…なぁ、兄貴」


「ああ。今更話すことなんて無いしな…。……一緒にどうかな?」




片手に存在するワインボトルを指し示しながらに問うエドガー。


ふっと微笑んだ2人はいつも以上に柔らかい雰囲気だ。


それについつい和まされている自分がいて……




「……………飲む」


「へへっ。そう来なくっちゃ」




圧倒されて…


それでも強制的ではなく自主的に、は空のグラスを受け取った。


注がれた果実酒を微量口に含むと、ふわりとの頬を緩ませる。


それが微笑んでいるように見えて、始めてみた“彼女”の心からの笑顔に


二人は思わず目をそらしてしまう。


ほのかに頬が紅色を宿したのは酒のせいでは…ない。




「先に一口飲んじゃったけど……………仲間に、乾杯」









三つのグラスが音を奏でた。









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あとがき

33話up!!

前回に引き続きオリキャラ登場です^^
ヴァーユは風神、トールは雷神の名前からつけさせてもらいました。
性格もできるだけ魔逆に……
あ、そういえば2人の口調はそれぞれモデルがあるんですよ(。´-ω・)

ヴァーユ→NARUTOのトビ
トール  →フルバの真知

2人とも、後半に大活躍してくれることでしょう(にこにこ)
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