Angel's smile



グロ・血の描写を含みます。
苦手な方はご遠慮ください(読まなくてもさほど支障はないはず…です……)










































さよなら、さよなら、さよなら――…















 ヒロガル キョリ 35
















まず一番に、耳を疑った。


その次にを…


の口から零れ落ちた言葉はロックの心を強く揺さぶった。




「は……?何言ってんだよ、お前…」


「……………」




荒い呼吸を繰り返していたは押さえつけられるようにして


叩きつけられた後頭部に鈍い痛みを感じながらも暗黙を保つ。


取り乱した心を落ち着けようと「待て」という言葉を何度も繰り返すロック。


彼の右手にはナイフが握られており、


左手はの肩を押さえつけたままの状態で静止する。


シーツには、頬から垂れるアカが染みをつくった。




「レイチェルをやったのは帝国の奴らで……」


「…………」


「…っ。名前も……、俺が無意識の内に話してたのを聞いて…!」


「…………」


「なぁ、嘘だよな?また俺をからかって――――」









「死因は軽いショック。…それと腹部、胸に二箇所の刺し傷………。


 ………私が…殺したんだ…………」









「……………………………」




「ごめんなさい…、」




知らなかったじゃ許されない


謝ったって、生き返るわけじゃない


ケセナイツミ


深く、


深く、


もっと深いところへと




刻まれる、溝














かなしいつながり














 +









「ヴァーユはここで待機。トールは……共に来い」




淡々とした口調で言うと、二人の人物からそれぞれ違う言葉が返ってくる。


トールは相変わらずの無表情で、「はい」


…で、


ヴァーユは不満気に「なんでっすかぁ…」


と、隊長に抗議の声を上げた。


は指先にビリッと電気を走らせ、あっという間にヴァーユを制するが…




「けが人の言うことは聞かない。おとなしく寝ていろ」


「お休み」


「…………………………っす」




長い沈黙の後の肯定。


むっとして見せるも、ヴァーユは既にあきらめたようだ。


身を隠すマントを羽織り、翻すその姿は隊長らしい風格を見せていた。




「お気をつけてっす…」




小さくなっていく二つの影にヴァーユはぼやくようにいった。
























「今回の任務は帝国に反逆し逃亡した2人が持ち去ったファイルの奪還と2人の…処刑だ」




但し、他の住民は殺すなよ、とくどいほどに釘を刺しては一軒の家の前に立つ。


背中にトールの二つの返事を聞きながら、灯りのついた家のドアノブを捻る。


突然の侵入者を歓迎するはずもなく、男が鋭い眼光で二人を見つめた。


女は奥にいる娘を庇うようにしてその光景を震えながら捕らえてた。




「帝国から来たものです。あなた方が数十年前に持ち出したファイルをこちらへよこしなさい


 …そうすればそこの娘には危害を加えないとお約束します」


「へっ、帝国の人間の言うことなんか…信じられるわけが無いだろう……!!」




「仕方ない…か」




トール、下がっていろ。


と非戦闘員を後ろへとまわらせると、ソードを鞘から抜く。


左手首に力を入れると剣は簡単にそれを貫いた。


奥からは2人の女の悲鳴が響く。




「ファイルはどこだ?」




ズ…と鈍い感触を感じながらソードをそれから抜き取る。


軽く払うと先端にびっしょりとついたアカが床に紋を残した。


女のほうへと歩み寄る。


その時…女が手の中に隠していたものをへと放った。




……… ビシャ …




「?」


「…それは毒よ!一滴でも浴びれば最後、体中に毒がいきわたって…それで………」


「ほう…」




咄嗟に庇った右腕にかかった緑のような黒のような色をした液体を、


ぺろりと口へと含む


それを、みた女は目を見開きながら驚愕に顔をゆがめた。




「僕に毒は効かない。…さぁ、ファイルの場所を教えろ」


「…っ教えたら…、娘の命は助けてくれるのね……?」


「………お母さんっ!?」


「あぁ」


「右の書庫の三段目…赤い帯の本に挟んであるわ……。さぁ、殺しなさい。早くあの人の後を追わせて!!」




「やめてぇぇぇえええええええ!!!」




ぐっと目をつぶった女は両腕を伸ばし、愛娘を庇うようにしている。


「さよなら」


そっと呟いたは振り上げたソードを躊躇うことなく振り下ろした。


アカが飛ぶ。


トールはその光景をの後ろからしっかりと瞳に映していた。




「……ぁ、あああ…ああ。あぁ………ぁ」




震える声は、下へと落ちる。


言葉にならない悲鳴をあげながら、娘は震え続けた。


トールがファイルを回収し、に任務終了を報告する。




「……さん?」


「記憶を…消していくか」


「?」




床に崩れ落ちる少女を誰かと重ね合わせたらしい。


よく見れば彼女は自分と同い年くらいに見える。


もしかしたら自分と……


すぅ…と伸ばした手の平が少女の頭に触れた。




「………っ!!」


「…?」




――― バチッ …




「(しまっ……力が暴発した……)」




いきなりに強められた力は少女へと向いた。


すぐそばにいたにも火の粉はかかる。


強まった力は得意体質も手伝ってか、電気を伴わせた。


少女の瞳がかっと開き、膝を突く。




さん…?」


「いい……、平気だ(こいつ……今すごく嫌な感じが……)」




「ロック…。ロックはどこなの……?伝えないと、早く…」


「(…記憶の一部が可笑しくなったか…?)………」


「ねぇ、お願い。ロックに伝えて!私は……私は……               」


「???………伝えるなら自分の口で言え、そのロックって奴にな」




の体にしがみ付くようにして求める少女。


その瞳には光は映っていない。


おそらくは耳も…


暴発した力が少女を蝕んでいくようにも見える。




「無理をするな………死ぬぞ」


「おね……ゴホッ、グッ……がい、します…」


さん…そいつもう……」


「……………」




――― グッ … グッ … サッ ………




「ふっ……」




トールは現実逃避をするように目を逸らしてしまう。


帝国の最終兵器とまでいわれたまでもが、ぐっと目をつぶった。


次の瞬間、は腕の中に人の重みを感じていた。


冷たくなっていく少女を力いっぱいに抱きしめた。




「ごめんなさい…ごめんなさい……、…」




謝ったって、生き返るわけじゃない


ケセナイツミ


深く、


深く、


もっと深いところへと









 +









「ごめんね…約束は、守れそうにないや……」















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あとがき

35話目…これで[ヒロガル キョリ]は終わりです。
少しかこのことが出てきましたが、全て捏造です(汗)
都合よく設定を変更していたりしますので、
その辺はお詫び申し上げます。
あと、この小説を読んでいて気分が悪くなったりする方がいましたら、
すぐに楽しいことを思い出してくださいね。
崩壊前はほとんど落ちます。(予告)
次からは[雨降りと消えた力]をお送りします。
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