Angel's smile
キエタ――…
雨降りと消えた力 36
頭に鈍い痛みを覚えながら覚醒する。
目覚めは、悪い。
天井へと吐き出したため息は想いと共にかき消された。
深まる溝
広がる距離
手を伸ばしても、届かない
掴んだのは空
虚無のココロ
コワレル、関係
“後戻りはできないよ”
雨降りのココロ
+
「おは…………」
おはよう。
せめてそれだけの言葉も最後までは紡がせてくれないのか。
まるで自分が空気のように扱われ、が落胆のため息を零すと共に
“当たり前だよな”
と心の隅で本心を押し殺すように無理やり納得させる。
たった今真横を通り過ぎた彼を振り返ることもせず、
は鈍い痛みを覚える頭にそっと触れる。
寂しいと思う。
この気持ちは何だろう。
苦しくなる。
胸が締め付けられるようだった。
痛い、痛い、痛い…
それは知らない感情だった。
「……あれ?」
開いた手の平からは、何も感じられなかった。
+
コーリンゲンへとやってきた翌日、熱が引いたは
すぐさまティナの元へと行こうと、話を進める。
いつも通りにやって見せるからはまだほんの少し顔色の悪さが見て取れた。
それでも、いち早くティナの無事の姿が見たいんだろうな、という
セリス、エドガー、マッシュは内心思い、戦闘にはあまり加わらないことを条件に
パーティはコーリンゲンを後にするのだ。
目指す方向は南…
山間に存在するゾゾ
半日がたったころだった。
その間は約束通り戦闘には加わらず、お得意の魔法さえも一度も使っていなかった。
全員は特に大きな外傷も見当たらない
それはバトルを繰り返していくうちにそれぞれのレベルが上がっていっている…ということの現われなのだろう。
は小さくため息を零すと「誰か食料をとってきてくれないか」という、
エドガーの言葉に自ら挙手する。
彼から離れたい、という想いがをそうさせたのだ。
「行きましょう、さん!」
腕に抱きついてきたセリスに一瞬戸惑うだったが、
相手が相手だけにそれを了承する。
男性陣は野宿の準備を始めていた。
+
「ロックと…何かあった?」
少し森の中へ入ったところで、セリスはぐいぐいと引っ張っていた腕を開放し、
歩くスピードも緩めた。
その表情には少しの心配が見える。
はあえてその問には答えず「どうして?」とさらに問を返した。
黙り込んだセリスには横目で様子を伺う。
「少し…いやかなり、様子がおかしかったから…」
「……そう?」
「ええ…。だから、私でよければ相談に乗るし…とおもって……」
目を伏せたセリス。
は先日のことを思い出し、話してしまおうかとも思ったが、それを実行することはなかった。
それでも「さっきの質問とは…違うんだけどね」と前置きしてから、
ポッケの中に手を入れて掴んだそれをセリスへと指し示す。
「……っ!これは!?」
「そう、セリスが父さんから預かってくれてた、“封水晶”」
楕円形のそれはサウスフィガロでセリスがに手渡したものだ。
けれどもそれは手渡したと同時にに溶け込み、
リングへとその姿を変えたはず。
次にセリスが視線を移したっの両手首にはリングは見当たらなかった。
は自嘲気味に顔をゆがませた。
「昨日から…かな。時々ね、胸がとても苦しくなるんだ。ぐさぐさ刃物かなんかで射されてるみたいに…
けど、よく…わからなくって。そのことずっと考えてたらどんどん力が………」
消えていった。
「………悲しいとか、さびしいとか、そんなんじゃなくて…。もっと……」
分かりかけてきてはいる。
けれど答えまではまだたどりつけていない。
不安になるキモチ。
知らない感情の芽生え。
このキモチは何?
この感情は何?
この痛みは何?
きっと自分で見つけないといけないものなんだ。
ネックレスのトップを握り締めた。
それは彼女がどうしたらいいか分からなくなったときにする癖みたいなものだ。
「今の僕に“魔法”は使えない……」
あとがき
36話目更新です。
そろそろかなぁ…と思い、セリスの敬語は解除です。
さんづけは相変わらずですけど…
こんかいの『雨降りと消えた力』はゾゾが終わるくらいまでの予定です。
相変わらずの無計画なので、
話数はまだ分からないんですけどね…(汗)