Angel's smile

















今の私は役立たずの足手纏い――…















 雨降りと消えた力 37
















の調子が悪いって事は意外とすぐに分かった。


無口になるとか、魔法が少し乱れているとか、咳き込んだりと、


様々な理由があるが、今回は少し違った。


否、一番近いもので言うと「無口になる」…だが、熱は下がっているし咳き込んでいるわけでもないので、


コーリンゲンでの体調不良を引きずっているわけではないようだ。


一番いいのはが話してくれることだが、


“彼女”の性格上それは無理だと言うことをセリスは知っている。


帝国にいたころからそれをずっと体中にしみこませていたから。


双子である兄のよりも特別視していたような気さえするほどだ。


それだけには何か特別な“能力”ガあるということなのだろうか…









 +









「……っ」




―― ブリザド ――




ヒュヒュン…という冷風が吹いたかと思うと、自分の目先でモンスターの鋭い爪が止まった。


ごくりと生唾を飲み込むの心臓はものすごい速さでなっていた。


利き手である左手にはナイフが。


それは魔力が消えたせいで杖が具現化できなくなったせいなのだが。


今回は全く役に立たなかった愛用のそれ。




「(力が全然出てこなかった…消えたのは魔力だけじゃないってこと…?)」




ぐっと奥歯をかみ締める


パーティのそれぞれが見て取れる成長をなしている。


関してはそれと比例するように、その差は開いてきていた。


それに今回のことで確信ついたことがもう1つ…




「(戦う力そのものが消えたってことか……)」




不安に揺れる気持ち。


生まれてきて一度も経験したことのないことに対する恐怖。


今の自分は、役立たずの足手まといだった。




「……さん?怪我とか、大丈夫?」


「…………」


さん?」


「……うん、平気だよ。…ごめん、次は気をつけるよ」


「?……ええ」




悟られてはいけない気がした。


咄嗟についたのは偽りの言葉。


大丈夫なわけない。


もう、ぐちゃぐちゃだよ。


私自身。




魔力が消えて、


戦う力もなくなって、


もう、私には何もない。




一人が急に怖くなった。




一人の時間が不安でたまらなくなった。


一人だと色々考えてしまう。


不知の感情のこととか、


考えただけで苦しくなる。









『何かあったら、俺に言えよ』









言えるわけ、ない。









 +









ならず者が暮らす街、ゾゾ。


ナルシェでが示していた方向。


…そして、ナルシェ、フィガロ、コーリンゲンでそれぞれが得た


住民達の情報の元、ついたのがこことなる。


町の中に一歩足を踏み入れただけで治安の悪さは見て取れるほどだった。


雨がじっとりと降り、高いビルばかりがたち伸びている…




にとって最悪の光景だった。









「すまない…ここはゾゾという町かな?」


「…ここはゾゾじゃないぜ」


「?」


「兄貴…一体どういうことだ?」




疑問に思ったエドガーがそばにいた“生きている”住民に声をかけた。


けれども帰ってきたのは不自然な返答。


一言答えて、つんとした様子で雨の中を走り抜けていく住民。


暫く黙ったままだったが口を開いた。




「多分ここであってるよ」


「何故?」


「あいつ…嘘つきの目をしてた。理由はそれだけだけど…」


「………そうか」




うん、と小さく頷いて見せる


よっぽど自身があるらしい。


エドガーは相槌を入れると、一番高くまで伸びるビルを見上げて渋い顔をした。




「そうなると……」


「…。私なら平気。ティナが待ってる…行こう」


「……………?」


「…?」


「いや………」




エドガーは少し目を見開きの姿を映す。


本人も無意識だろう…パーティのまえで“私”を使った。


新たな事実を胸に刻みながら、エドガーは暗黙のままにしておいた。




階段を一歩上るたびに、の言葉の数が減っていった。














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あとがき

37話目更新です。
都合のため短めに切らせてもらいました。
次からは段々落ちていきます。
ご注意くださいね
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