Angel's smile

















鎖――…















 雨降りと消えた力 38
















ふら…と揺れた体を一番傍にいたエドガーは慌てて支える。


手の平で口元を隠すはもう既に言葉を話すことさえできないレベルまできていた。


俯いているせいで桜色の前髪によって顔の半分が隠れてしまうため、表情は見えない。


それでも、壁にもたれかかってしまう彼女≠フ状態は最悪だった。


高いビルの階段をずっと上り、半分を当に超えたところ。


高さは相当なものだった。


高所恐怖症であるにとってはここで引き返させるべきなのだろうが…




「……ごめ、ん」




がそれを拒み続けた。


エドガーが彼女の傍を離れられないのも実はそれが理由。




「なぁ、兄貴!」


「どうした?」


「ここ…飛び越えられないかな…?って…」




だけどさ…。


と躊躇するそぶりを見せるのは兄の隣にいるに対する遠慮。




「先に行くぜ」




久々に口を開いたかと思うとロックは短くそういい残し楽々とその距離を越える。


眉をひそめ、何か言いたげな視線を送ったマッシュだったが、


あえて言葉にはせずへとたずねた。




「どうする?」


「行くに、決まってるだろ」




声を発したのは


蚊が鳴くようなか細い声。


雨の音で掻き消されてしまうほど。


は鞭を打つように足を歩ませると、窓枠に手と足をかけ…蹴った。




「!」




飛び移るには問題ない距離。


ももとは帝国兵。


余裕で隣の窓へと飛び移った。


とん、と足を地に着けて少し歩いて再び壁に手をやる。


一度は目を見合わせた三人は頷きあって、二人の後へと続いた。









 +









「少し…休む……」




やっと、といった雰囲気ではいった。


自分も共に残ると言ったセリスを制したは壁にもたれかかりながら腰を下ろす。


限界だった。




「休んだら、すぐに後を追う…。先に行ってろ……」


「でも……」


「………、…」


「………」


「後はこの階段上っていくだけなんだ。一人でも、平気だろ」


「ロック……!貴方さっきから…っ」




冷たく言い放ったロックにセリスは感情をぶつけた。


睨むような眼差しをロックへとおくるセリスをは再び制すると、


全員に先に行くことを促した。


渋々とした様子でセリスはエドガーに背中を押される形で階段を再び上り始める。




「…早く、来てね」




頭を伏せるにセリスは小さく零した。














「くそっ……」




荒い呼吸の中、は吐露する。


不安な気持ち、


ヒロガルキョリ、


不知の感情、


それに対する恐怖、


犯した罪、


次第に使えなくなっていく魔法、


消えた力、


雨降りの廃墟、


高いビル、




雁字搦め。









思い出すのは…あの、記憶だった。









「…やめろ……、もうっ…十分だろ?」




ぐっと固く縛った唇。


力いっぱいにかみ締めて、耐える。


ふと、視線を上げたは大きく目を見開いた。









「こんな晴れた日にどうしたんだ?」









 +









「やっぱり私…戻ってさんの傍にいるわ…」




後ろ髪惹かれる思いでいたセリスは足を止めて、全員に聞こえる声で言い放った。


一番前を歩いていたロックは何の感情もこめずに淡々と言う。




「あいつももう子供じゃないんだ。一人でも平気だ―――」




――― パンッ !




「「!」」




ロックの言葉が皆まで言い終わることはなかった。


それはセリスの平手打ちによって阻止されたから。


ロックはセリスの表情を見て言葉を詰まらせた。


小刻みに震えるセリスはぐっと何かを押しこらえていたのだ。


その場に暫くの沈黙が流れる。


それをはじめに破ったのはマッシュだった。




「ロック…最近お前変じゃないか?」


「………」


「ロック…?」


「……。あいつは…あいつは……」


「貴方の恋人…レイチェルを殺した。それが原因なんでしょう?」




セリスが言葉を発したの共にロックは射抜くようにセリスを睨む。


同時にエドガーとマッシュは驚きで顔を見合わせた。




「アイツが、話したのか?」


「違うわ、さんは言わない…聞いたの。扉越しに。あの夜…」




ごめんなさい、とセリスは呟く。




「…、貴方はは…さんのこと知らないから…」


「…。話してくれないか?…セリス」




ジン…と傷む頬をロックは黙って甲で撫でる。


俯きがちの視線のままセリスは事実を紡ぎ始めた。




さんの両親は…の目の前で殺されたの。


 一年前…さんが帝国から抜け出そうとして…見つかって、その罰で…


 けれど罰を受けたのはとても大事だった両親…それがにとって一番残酷な罰だった。


 それは…人間のできるものじゃなかった………」




十字架に向かわせるように縛り付けた両親。


帝国は下級兵の一人ひとりに剣をわたし、それで刺し殺すことを命じた。


その光景ををただ目の前で見せ続けられた


目を逸らすこともできない、


助けることもできない。


自分はなんて愚かなんだと思い知らされる。




とめどなく零れ落ちるのは大粒の涙。


干からびてしまうほどに流されたそれはやがて涸れる。


何度も両親の名を叫び続け、喉はつぶれて、なくなってしまう。


どうして私は馬鹿なんだろう。


どうして私はこんなにも弱いんだろう。


どうして私は…















































































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あとがき

38話目更新です。
暗めの奴を書くのはもう癖のようなものになってしまい、
いまでは暗めのものを書くと落ち着くほどです(やばいって)

それでも今回のはさすがに鳥肌が立ちましたね…
予定ではもう少し残酷にしてやるつもりでしたが、
やめました。

もうすこし、私も大人になりたいです。
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