Angel's smile

















落ちていく世界の中で 君の声が聞こえたよ――…















 雨降りと消えた力 39
















堕ちた、ココロ




声は枯れた




言葉は消えた




涙は涸れた




大切なものも、失くしてしまった









遠い記憶


ぼんやりと虚ろに…浮かび上がる


お父さんとお母さんのの面影…




手を伸ばしても、もう届かない




掴んだその掌には何もなくて


寂しさだけが積もっていく


誤魔化すように手の平を握り締めた




『そんなに強く握ったら壊れてしまうよ?』




そういって


笑って


泣いて




…死んだ。










「帝国は……アイツは…もう二度と逃げ出さないように、縛り付けるために…やったんだわ。


 それが………高い丘の上で行われた………」




実力者のが帝国を何故裏切らないのか、


答えは人質。


エドガーはフィガロでのとの会話を思い出して奥歯をかみ締める。




がどうして笑わなくなってしまったのか。


答えはたくさんの人の不幸の上で自分が成り立っていると思い込んでいるから。


マッシュは胸のおくが締め付けられるような痛みを感じている。




が何故高いところが駄目なのか…


答えはそこで大切なものを二つ失ったから。


高いところに行く度に、何かを失うような感覚が支配する。


非力な自分を責めてしまう。


ロックは真っ白になる感覚の中での言葉を思い出した。




『僕だって好きで人を殺めているわけじゃ…』




『ありがとう…』




『お前のような“良い奴”を女どもが見捨てておくはずがない』




『ロック』




『やられたらやり返すのか…?子供の喧嘩じゃあるまいし…』




『話を聞いてやれる耳くらいは持ち合わせているつもりだが…?』




『僕の仲間を傷つける奴は誰であっても許さないから…』




『バイバ―――――』




『……ありがとう。もう、大丈夫だ…………バカ』




『助けなきゃ…


 守らなきゃ…


 救わなきゃ…





 独りにしちゃだめだ』




『起きたとき…必ずロックが傍にいてくれるね』




『次に目覚めたときにさ…。ティナを一緒に探してくれると嬉しいな』




『…今度からはロックに言ってからにするよ』



『もっと…早くに気がついて、言うべきだったんだ……』



『攻めるなら攻めればいい、僕を…ね』








『ごめんなさい…、』









裏切ることが何を意味するのか。


体にしみこませてきた帝国。


断ち切れない鎖で繋がれていた


今考えてみると、リターナーに寝返るなんてよほど勇気をいることだと思う。


ロックのぐっと握り締めた拳からは血が顔を覗かせていた。




「理由は分からないけど…は今魔法が使えないの」


「!?…魔法が……」


「じゃ…じゃあ、今のは………戦えない、のか?」


「……。やっぱり彼女≠フ元を離れるべきではなかった…」









「……………………………彼女?」









ロックの言葉で全員が口を閉ざして視線をロックへと向けた。


集まる驚きの色を隠せないでいるその視線を感じて、ロックは慌てる。




「いやいやいや…あいつ確かに声とか細い感じだし…


 体とかも全然小さいし、時々口調が女々しくなるけど……………」


「もしかしてロック……………気づいてなかったの?




 は…女の子よ……………?」


「は?」


「だから、は女の子なの」




沈黙。


フリーズするロック。


ザーと雨がビルを叩きつける音がうるさいくらいによく聞こえた。


凍りつくロックをみて、セリスは乾いた笑みを浮かべながら「気づかなかったの」と再び問う。


反応を見ただけで答えなんて明らかだったが。




「……………………エドガーとマッシュは?」


「俺が気づいたのは本部の時かな…?が倒れて、ベットに運ぶときに担ぎ上げて…その時」


「私は………さっき、だな。が自分のことを私≠ニ…。…レディを見る目が落ちたかな?」


「…ウソだろ」




ようやくことの大きさを理解したロック。


そこではっとなる。




「じゃあが危ないじゃないか!」


「だからさっきからそう言って―――」









―― ぁぁあぁ!! ――









「「「!!!」」」




下のほうから微かに聞こえてきたのは間違いなくの声。


セリスの声を遮ったそれはその場にいた全員の耳にも届く。


同時に全員は地を蹴り今上ってきた階段を急いでおり始めた。




「…くっ!」




ロックは自分がとってきた態度を思い出し、自己嫌悪をしていた。









 +









「この程度だろう」




首元の服を握り締め男…ダダルマーはを軽々と持ち上げた。


の左手には咄嗟に構えたナイフ。


けれども相変わらずそのナイフが役に立つことなんてない。


ぶらりと垂れ下がった左の手の中からとうとうナイフが滑り落ちてしまった。


は荒い呼吸の中、言葉を紡ぐ。




「へっ……嘘つき、め…」


「俺は嘘つきだ」


「それが、嘘だって言ってんだよ、……」




刹那に頬に鈍い衝撃。


こめかみからツゥ…と血が頬を伝ってあごのところまで伝う。


それを最後にが喋ることはなくなった。


首を傾げたダダルマーは実に不快そうに言う。




「そろそろ始めるか…」




先ほどからこいつが話しているのは真逆の言葉。


始まりは終わりを示す…


握り締めている手に力を入れた。




放り出される感覚がを襲う




浮遊感




上へ上へと流れていく世界




堕ちていく




終わり




最悪の結末









――――っ!!!」









霞んだ視界にぼんやりとロックの姿が映った。














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あとがき

39話目更新です。
今回の章での暗いところは大体ここまでです。
次からは少しづつ上げていきたいよなぁ…
そうしないと本当に終われません。
一応今回で高所恐怖症の理由が分かりましたね。
一種のトラウマという奴です。

なんだかマッシュの出番が少ないように最近感じます。
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