Angel's smile
交差していた想いが、今――…
雨降りと消えた力 41
虚空に放たれてはすぐに消えてしまう声。
綺麗な旋律。
いつまでも耳の奥に残る音。
天使の奏。
煩く鳴っている雨の音を忘れさせてしまうその声は間違いなくのものだった。
薄く開かれた切れ長の瞳は逸らされることなくダダルマーを見つめる。
一歩。
はそいつに歩み寄った。
「ねぇ、教えて。誰に言われてこんなことしているの?」
『!』
ダダルマーの額に指先が触れた。
ぽう…とあの白い光が集まる。
すると…
「お前…の、思っている……通りの、人物だ……」
「そう………。ごめんね?」
ゆっくりと目を閉ざすダダルマーは何かを悟ったらしい。
「封解」
指先を真下へと這わせる。
光が一閃、残像を残しながら下降し、ゆっくりと上から消えてゆく。
ダダルマーの身体が消えていくのはそれとほぼ同時だった。
… ありがとう …
そんな声が雨の中に消えた。
+
目を閉じながら冥福する。
ゆっくりと光が溶けていく。
剥がれ落ちるように翼が、長い髪が、身体が…
“人間”の姿へと変わっていった。
手の平を見つめながらその変化を確認し、感嘆する。
思うことはたくさんある。
考えなきゃいけない事だって…
それよりも優先されるのは…
「みんな…」
一部始終を見ていた仲間達のこと。
は一度うつむき…しっかりと見つめ返した。
「…心配した?」
「……え、えぇ…けれど「当たり前だろっ!!」」
「…っ」
セリスの言葉にロックの声がかぶさる。
見なくてもわかるほどに含まれた怒気にはぎゅっと眉根を寄せて戸惑う。
今最も苦手意識を持つ相手なのだから、当然だ。
「如何して言わないんだ!?
体調が悪いこととか、魔法が使えないとか…!
今回はセリスに話してたみたいだったからよかったけどなっ!
もし知らずにあのままだったらかなりヤバかっただろ!!
もっと頼れよ!もっと信じろよ!…仲間だろ!?」
マシンガンのように発せられた言葉。
その内容は確実にを黙らせた。
唇を固く縛り、罰の悪そうに表情をゆがめる。
荒くなった息を整えてから、ロックはできるだけ静かに言う。
「なんか言うことは…?」
「…ご、めんなさ」
「―――そうじゃなくて!俺が聞きたいのは…」
「…………あり、がと」
「…おう!」
紡がれるように細い声だったが、言えた。
の口から、
の言葉で、
の声で、
の意思で、
自身の気持ちを…
ちゃんと、伝えることが出来た。
「母さんが、僕に会いに来てくれたんだ…
僕がこんなに苦しんでるっていうのにまたこの世界に放り込むんだよ。
酷い親でしょ?
…なら、それに答えないといけないじゃん?」
ロックはよく言ったな、とでも言わんばかりに
何時もよりもすこし優しく、ふわりと頭を撫でた。
途端に千切れそうになる糸。
苦しくなる。
けど…
「ティ…ティナのところに行こう。なんか心配になってきた…」
視線を合わせずにふい…と先へ歩き出した。
階段をすこし早いペースで歩く。
その頬を濡らすのは…。
その仕草を見て、
「…よっぽど嬉しかったみたいね…」
「みたいだな」
「…?怒ったのが、か???」
「……そうじゃなくて…さんは―――」
「…?」
一区切りを置いてセリスが首を振る。
「なんでもないわ。さて、私たちも行きましょう」
セリスがそういった矢先、上から「置いてくよ」という
の声が降ってきた。
途端に千切れそうになる糸。
苦しくなる。
けど…
この胸の痛みは、嫌いじゃない。
+
「ティナ…!」
扉を開けたそこは広い空間。
すこし長い廊下の先の部屋の中央には、
ティナを横たわらせてあるベットがひとつ。
ほかにはそばに置かれているイスくらいで、
なにもない単調な部屋。
はティナの元へすこし“他の事”にも
気を払いながら歩み寄った。
ウ……クゥルルル……
と苦しそうに悶える彼女はまだ幻獣の姿をしていた。
ナルシェで見たのと同じ―――
「どうだ?…」
「――。外傷は…ほとんど無いから大丈夫。
けど意識が無いみたい…それに、苦しそう……」
… ケアルラ …
ケアルよりもほんの少し強めの治癒魔法。
どうやら魔力は完全に復活したらしい。
「怯えているのじゃよ」
その声を耳に…はそっと目を閉ざした。
あとがき
41話目、すこし遅れましたが更新です。
感動シーンを目指しました。
最近は暗いところばかりだったので
すこし上げていこうかと…^^
ラムウ登場までだったので予想通り(珍しく)
次は合流、出発くらいまでかけ…ないか。
幻獣とラファエルの小さかった頃のことを入れていこうと思います。