Angel's smile
















幻獣?人間?――…















 幻獣と魔石 44
















「その時の女性こその母…セラフィムじゃ」




そう言い放たれた後、その場の空気は凍りついた。


ゆっくりと目を閉じて見開く。


そうして少しの間をおいたところでラムウは


皆の心の中を見透かしたように頷いて見せた。




「じゃあ、は…」


「幻獣…?」


「いや…。われわれとは何処か違う」




幻獣と人間の間に生まれた特殊な存在。


どちらでもあり、どちらにも属さない。




“人と幻獣は相いれないもの…”




「話を続けようかの、」



















約束どおりコーリンは女性の姿をした幻獣…セラフィムとともに


闘神像のある場所へと赴いた。


封印したのは遠い昔の先祖ということもあって


生まれて初めてその目に映す闘神達に


コーリンは眉をひそめたという。


一つ目は肌で感じる魔力への驚きと興奮。


そしてもう一つがねじをゆるめたときのような


不安定な魔力への心配…


もっとも1000年前にかけられた封印。


薄れていくのは当然…


自らが恐れたその魔力を開封させないためにも


コーリンがこの地に残らなければいけないのは明白だった。




『これも運命(さだめ)…僕はこの地に残ります』


『それに今更向こうの世界に未練なんてありませんしね』


『…っと、唯一の心残りといえば…妹のことくらいかな?』




「………妹?」




ふとした疑問を口にしたのはマッシュだ。


それにはラムウではなく、ロックが答える。




「そういやとティナが従姉妹同士だって…前に言ってたな」


「従姉妹…?じゃあ、ティナの母さんか、」


「かもな」




会話を耳に、ラムウは関心気味にほう、と髭をなぜた。




「(信頼しておるようじゃの…)」




ロックをはじめ、セリス、エドガー、マッシュを見渡し、


ラムウは至極嬉しそうだった。




『裏切り者――』




それに比べて自分はなんていうことを言ってきたのだろう。


魔導の力を悪用し、さらには自分のみ助かるために


帝国には絶対服従していると思い込み、


ただ責め続けていた我らは、


彼女はどうして助けたのだと、初めは信用さえしなかった。




『裏切り者――、裏切り者――』




『確かに僕はアンタたちにとっては裏切り者だ。


 仲間を見捨てて、自分だけしゃあしゃあと生きている。


 幻獣界の理(ことわり)を平気で破ってるような裏切り者だ…。


 父さんと母さんだって…僕のせいで……。…、



 だけど―っ!これだけはうそ偽りない本心だって、どうか信じてほしい…』




流れ落ちて地面に小さな水溜りをつくるもの。


静かに流れる。


想い。


それだけが彼女への意識の中で一番映えて見えた。


ただ、




心を奪われた。







 +










「目覚めておるのじゃろ?」




ラムウが見つめる視線の先…壁に座り込む


はぱちりと眼を開いている。


時折からだの周りを弾ける電気が


まだ体内を支配しているということは見なくても明らかだ。


バチッ…


と弾けるたびに眉をひそめ唇を硬く閉ざす。


それはじわじわと身を蝕んでいくものに


対し、じっと耐えているようにも見えた。


マッシュが歩み寄ろうとしたのをセリスが止め、


ソードの柄に手をかけながらある程度…


放電に触れない距離まで近づく。


魔力を吸い取る力を持つソード。


セリスは何の躊躇いもなく剣先をへと翳した。


また、も視線だけ彼女に向けるだけで、


たいした抵抗もしていない。


寧ろするそぶりさえ見せない。




― 魔封剣 ―




体内の電気を吸い取る。


が自由の身になったのはすぐだった。




「ありがと、セリス」


「…。もう無茶はしないでよ?」


「考えとく」


「もう…」




やれやれと肩をすくめるセリスは呆れた風にため息をついた。


苦笑するは一度俯いてからラムウを見る。


今度は落ち着いた思考でラムウと向き合う。




「落ち着いたか?」


「うん」


「世話の焼けるやつじゃ…」


「まだしびれるんだけど…。


 今の…僕じゃなかったら死んでるんじゃないの?」


「お前だからこそじゃ。


 あの“牢の中の拷問”に耐え抜いたお前だからこそ…」


「……ご、拷問???」


「やはり話しておらんかったか…」




過敏に反応したのはロック。


は「だから言いたくなかったのに」と


至極めんどくさそうに静かに息を落とす。




「昔のことなんて、もうどうだっていいよ。


 幻獣とか、人間とか…僕にとっては関係ない。


 ただ、


 思い出してほしいってのは思う。


 遠い昔は幻獣と人間は仲良くしてたんでしょ?


 同じ世界で時をともにしてたんでしょ?


 ならきっといつかできると思うんだ。


 もしその時僕が生きていないとしても…




 僕はそう信じてる」




目を閉じて唇をかみ締める。


瞼の裏で微笑んでくれる人の中には人間だっている。


ちゃんと、知ってる。


だからこそ、変りたいとおもう。


守りたいと思う。









幻獣と人間の血を引く自分だから、そのことを忘れたくはない。













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あとがき

44話更新ー

この話は間違えて上書きしちゃい、
更新がささやかながら遅れてしまいました…(ごめんちゃい)
次の話はもうできているので
次は早いとおもいますっ(○´ω`○)

セラフィムが母親…ってどうですか?(聞くな)
初期はラクシェミと迷ったというのは内緒です(´・_・`)
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