Angel's smile
















運命だって、私はちゃんと受け止められる――…















 幻獣と魔石 45
















目を閉じて唇をかみ締める。


瞼の裏で微笑んでくれる人の中には人間だっている。


ちゃんと、知ってる。


だからこそ、変りたいとおもう。


守りたいと思う。


幻獣と人間の血を引く自分だから、そのことを忘れたくはない。




「そんなことより、今はティナのほうが先だろ?」




いつもの憎たらしい子供のような口調で


は全員の注意を促す。


ふ、とラムウが微笑んだ。




「ガストラの魔導研究所に捕らえられている


 わしの仲間ならティナを救えるかもしれない」


「!魔導研究所に行けばあんたの仲間がいるんだな?」


「魔導研究所…」


「(魔導研究所…あそこに……?)」




復唱すると記憶をたどらせるセリス。


双方魔導研究所を知っているもの同士


思うこともあるのだろう。




「仲間を見捨てて自分一人だけ逃げ出しここに隠れ住んでいた。


 だがそれももうおしまいじゃ」


「…」


「どう言う事だ?」


「ガストラの方法は間違っておる。


 幻獣から力を無理に吸い出したところでその魔導の力は完全にはならない。


 幻獣は魔石化してこそ魔導の力が生かされる…」




何をっ!?


エドガーが声を上げた。


ラムウの体から放たれる光を見ての声だった。


そして次にはを見る…


じっと…その様子を見つめている彼女を。




「自ら魔石となりお前達の力となろう」


「魔石!?」


「幻獣が死す時、力のみをこの世に残したものが魔石……」




キン…


耳の奥に響く音を耳にしたかと思えば


その方向には3つの魔石があった。


悲しそうに目を伏せたのはラムウだけではなかった。




「これは帝国から逃げ出す時に死んだ仲間達……そして私の力も……」


「…ラムウ!最後のお願いなんだけど…


 向こうで母さんと父さんに伝えて、




 もう大丈夫だから…安心して、って」




光が小さな粒になって、まるで溶けていくように消えていく。


が最後にそう言い放ったのは


光が消えるほんの前だった。





キン…





静かな時が流れる。


最後の一粒まで消えてしまった光を指先がたどる。


形に残ることのない想いを受け、


ロックは卑屈に眉根を寄せた。




「じいさん…死んじまったのかよ…。


 魔石?


 自分の命とひきかえに俺達に力を…


 …どうして、そこまでして…」




“我等を力として用いれば星は死に命は途絶える……


 止めるのじゃ。魔大戦を再びおこしてはならぬ…”




瞼の裏にしっかりとその光景を焼き付ける。


忘れないために、そっと胸の奥へとしまった。




『人と幻獣は相いれないもの…』




今はまだ、無理かもしれない。


それでもこれから先のいつか――…


ちゃんと受け入れることができる時まで…


私は自分を信じようと思う。




ふと目があったロックがかすかに笑んでくれたことが、


少し嬉しかった。




「ティナ……待ってて。必ず迎えに来る」




そっと彼女の頬を撫でて呟く。


それだけ言い残しては誰よりも先に足を進めた。









 +









一歩、また一歩。


距離を縮める度にバカ正直な心臓がドキドキと鳴る。


後ろでセリスが自分の名前を呼んだけど、


僕は首を振ることでそれを嫌がった。


目の前に広がっている光景にめまいがしそうだ。


どんよりと気分を下げてくれる曇天の空。


雨粒が大地を削り、ゾゾの町全体を潤わせる。


手すりに当たって、弾いたそれがの手のひらへとかかる。


セラフィムの魔石を握り締めていた震える手を


ゆっくりと息を吐きながら振りほどいた。




…さん、」


「…大丈夫。別に…落ちそうだから怖いってわけじゃないから」




ザザザァァア…


雨音は何時までも続く。


セリスが一歩、また一歩と僕との距離をつめていき、


やがては彼女の細い指が僕に触れた。




「大事なもの…奪っていくところだから、怖いんだ」




後ろから抱きしめて、


ゆっくりと顔を背中へと埋める。


金色と桜色が少しだけ混ざった。




「大丈夫…。もう何も失わないわ、何も…」




彼女の頬に滴が流れた。


顎を伝って大地へと消える。


雨へと変わっていったもの。









「うん」














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あとがき

45話更新

今回の話で『幻獣と魔石』は終わりです。
ちょっと短め…でしたよね?
つぎ落ちるのは…魔導研究所でかな?
もう少しでアウリエル君の登場しますよ
どういう風に登場するかは…秘密です;
どちらにせよ印象的な登場になるんじゃないかな?
なんたって、ラファエルの兄さんだもん(笑)
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