Angel's smile
















きっとティナやお兄さんも喜ぶと思うよ――…















 マリア交響曲 48














ジドールの町を南に進む。


そして一日半かかってようやくついた劇場を見上げて


はひっそり息をのんだ。


街からわりと距離があるにもかかわらず


その建物は豪華や上品さが伺える。


流石、ジドール国だな、とは複雑そうだった。




「あ!この間の」




扉を開けてすぐに目に入ったのは上品なつくりの


黄色で縁取った赤いカーテンと真紅の絨毯。


そして奥からたどたどしく出迎えてくれたのは


以前街であったダンチョーだ。




「手紙読んだぜ。セッツァーがさらいに来るんだって?」


「劇が盛り上がった時にくるだろう。派手好きのセッツァーだからな」




ふゥ…


と盛大にため息をついてダンチョーは額を押さえる。


どうしようもない様子で階段を上がっていくダンチョー。


ロックはひるむことなく彼の後を追った。




「よし!そのときに出ていって捕まえれば…」


「やめてくれ。芝居を台無しにすれば劇場から首にされる」


「なら、お手上げじゃないの!」




セリスがさらりと言い放つと、ダンチョーは


「だから悩んでいるんだ、」と付け加えた。


芝居は成功させたい、


だけどマリアはさらわれたくない…




「さらわせればいい」


「?」


「囮だよ。わざと女優をさらわせてセッツァーの後をつける。


 あわよくば船を横取りする」


「(それってドロボウじゃ……)」




ぼそ、と呟いたにもかかわらず『ドロボウ』という単語に鋭く反応したロック。


愛想のいい笑みを浮かべたまま肘で制した。


け、とは拗ねる。




「駄目だ!駄目だ!マリアにもしものことがあったら……」




そういってため息を吐くダンチョー。


諦めたように部屋に入ろうとした彼を


ロックは素早く入り口を塞いで止めた。


ダンチョーの足もとまる。




「だからオトリなんだよ。マリアさんは安全な場所で隠れてもらって……」


「へ?」


「似てるんだろ? マリアは?」




「へ?……私?」




「マリアに化けたセリスをわざとさらわせ、俺達を飛空艇に案内する」


「名案だ!」




あ、なるほど…


納得したはふふん、と口端を持ち上げる。


そして視線をセリスへと向ける


否、向けたのはだけではなかった。




「そ、そんな!私は元帝国将軍よ。


 そんなチャラチャラしたことできるわけがないでしょ!」




そう言い放ったのも束の間。


セリスは隠れるようにロックを押しのけ楽屋へと消える。


きょとんとする一同。


ロックとがそっとドアに耳を寄せる。


中からセリスの声が聞こえてきた。




「あー あー ラララー らー あ うん マ ァ リィ アーー」




瞬きをして驚く


ロックに関してはクク…と子供っぽく笑っている。


そして親指で部屋の中を指してロックは


「結構やる気だぜ、セリスは、」と促した。




「早速準備だ! セリスを大女優にしたてるぞ!」




その言葉を合図に全員は楽屋へと入っていく。




「あれ?」


「……どうした?


「今なんか間抜けた声が…」


「はぁ?」




振り返ったは気のせいか、と首を振った。




「気のせい、かな?」




そう言って中へ入った


ロックが首を傾げたがすぐに扉を閉めた。




真紅の絨毯の上に一片の手紙が舞い落ちた。









 +









「キミ、いい声をしているね」




そういわれたのはドレスやら台本やら


セリス用に作り直している時だった。


あわただしい雰囲気が漂う中、


は一人間抜た声を出す。


そして一歩、期待に満ちた眼差しで近づいてきた


ダンチョーには眉をひそめ


一歩退いた。




「ヤダ、絶対やんないから、」




激しく首を振る。


けれどもダンチョーはひかなかった。




「ワンシーン歌ってくれるだけでいいんだ」


「ヤなもんはヤだ。歌はともかくドレスとか、リボンとか、真っ平ごめんだ」


「お、やってみりゃあいいじゃないか」


「オイこらてめー。面白半分で話に乗ってんじゃねーよ」


「安心しろって、 腹抱えて笑ってやるからさー 」


「だから嫌なんだよ――っ!」




きっと睨むとロックはけたけたと笑う。


ダンチョーはしゅん、となった。


ドレスの採寸を終えたセリスが顔を出して


「いいじゃないの」と告げ口をした。




「一緒に頑張りましょうね、さん」


「ちょっと待った!何でもうやることになってんの?


 僕の意見誰も聞くきないでしょ」


「ふふ……一度でいいからさんのドレス姿、


 見てみたかったのよねー」


「〜〜〜!?」




半分絶望に近い表情をしてはまた一歩彼等から遠のく。


そんな彼女にとん、と両肩に手を置いたのはエドガーだった。


にこにことした笑みを浮かべて見せ付けるように


彼女を自身へと少し近づける。


そしてそっと何事か囁いた。




「………」




ふ、と笑みが消えた。


今まで軽い調子でからかっていたロックが彼の行動を少し睨んだ。




「ほ、ホント…?……ホントにそう思う?」


「勿論」


「………………………や、やってあげてもいい、けど……」




照れた風に視線を徘徊させながらが言う。


ダンチョーが「早速準備だ!」と指示を出し、


とセリスを連れて奥の部屋へと入っていく。


「なんていったんだい、兄貴」と歩み寄ってきたマッシュに


エドガーは巧みな笑みを浮かべたままはぐらかした。




「どうしたんだい?ロック」


「………」




ロックははっとなり首を振った。




「なんでもない。……ま、アイツがどんな風になるか見ものだな」




と皮肉を投げた。


エドガーは企みが成功した面持ちでいた。








“ そして、ロックもきっと喜ぶだろうさ ”














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あとがき

48話になりました。

ちなみに最後の言葉は彼女には言ってません
(いえば反発することくらいエドガーは解ってます)
↑そしてちゃっかし自分もドレス姿見たかったりする

歌のシーンだけ結局出すことにしました。
本当は出さないでやきもち焼かせようと(問題発言)…
ナレーターか、歌か、出ないか…
主役になるという案は最初から無かったです(笑
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