Angel's smile
俺の胸、今、高鳴らなかったか?――…
マリア交響曲 49
鏡に自分を映してそっと微笑みかける。
鏡に映った真逆の自分はだ。
ミラーツインのと。
それは鏡に映したように左右が逆向きな双子。
鏡で微笑む彼はそっと自分へと指先を伸ばした。
冷たい感触が伝わり、はゆっくり、彼と掌をあわせる。
「ごめんね、僕だけこんな……君をほったらかしにしてる癖して……」
目を細めると彼は悲しんでいるように見えた。
否、実際悲しんでいる。
にはそう見えた。
「君はなんていうんだろうね?」
喜んでくれると、いいな。
儚げな願い。
彼はそっと微笑んでくれた。
微笑んだのは、きっと彼だ。
「会いたい、」
そっと呟いたのは彼女の素直の言葉だった。
+
台本の読み合わせから始まった練習は
今では衣装合わせや舞台裏での最終確認のみとなった。
多くの舞台関係者が漂う舞台を避けるように
は一人楽屋にいた。
上演まであと僅か。
そしての出番まで既に一時間も切っている。
主役、マリア役のセリスといえば
すでに舞台袖の上手のほうにスタンバイしているだろう。
時計をちらりと見て「そろそろ、か」とは息を吐いた。
時期に音が始まった。
+
音楽が始まった。
舞台が暗くなり板付きで主人公のドラクゥが
チョコボを傍において立っていた。
ライトがドラクゥ一人に当てられ自然とバックミュージックも
それに馴染むように控えられた。
一人コーラスが始まる。
しかし、そんなものは耳に入っていない人物が客席に一人…
「俺、控え室の方にいって見るよ」
仲間にそういってから座席を立つ。
隣でダンチョーが「大丈夫かな、」という呟きが聞こえた。
ふと目が合ったエドガーからは「いってやりなよ」と
背中を押すような一言をくれた。
マッシュに限ってはただコーラスを見て楽しんでいる。
おいおい、当初の目的だけは忘れないでくれよ。
扉を一つくぐると中とは違った穏やかな空気に思わずため息が出た。
中とはまた違った眩しい明かりが目に心地よい。
真紅の赤い絨毯を踏みしめて階段を上る。
そのうちいくつかの部屋が並ぶ廊下に入り、
ロックは前もって聞いていたの楽屋の前に立つ。
「緊張してるのかな」なんて脳裏の隅に思いながら
控えめのノックをした。
中から女の人の声で「どうぞ」と聞こえてドアノブを捻った。
+
「――― あ、れ?」
部屋に入ってのロックの第一声はそれだった。
自分に背を向ける金髪の女性を見つめて
思わず声を上げてしまったのだ。
脳裏に疑問符を浮かべるロック。
その声に反応した女性が振り返り、自分の姿を捉えるとふと笑んだ。
「どうしか、しましたか?」
通る声で彼女は言った。
凛、と耳に響く心地よい声。
金の前髪から覗く褐色の双眼。
真っ白なドレス。
胸元は大きく開けられて両肩には白いリボンが控えめに飾られている。
そんな合間から見える鎖骨や首筋が
自分は女だ、と言わんばかりに見えて思わず視線をそらしてしまう。
金の髪に丁寧に添えられた藍色のリボンは
よく映えていて純白の衣装をより強調させた。
ロックは瞬きをしてはっとなると部屋全体を見渡した。
「この部屋に、さ。これくらいの…
無愛想面の女がいるって聞いてたんだけど…しらないかな?」
「…?」
「あ、いや……(部屋間違えたのか???)」
しどろもどろのロック。
ただ只管に驚いたような視線を投げてくる彼女を
直視できずに視線をさまよわせている。
女性はゆっくりとした歩調でロックに歩み寄る。
腕を伸ばせば確実に届く距離。
この距離なら整った眉、長い睫毛、光を程よくさす褐色、
唇の動き、そして声。
全てが身近に感じられた。
そして女性がぐぅ、と顔を近づけて見つめてきたので
ロックは思わずどきりとする。
「…あれ?マジで気がついてないんだ…」
あとがき
49話ですねー
ちょっと動機を一つ。
二つをいっぺんに書くのって難しいんですね。
三人も四人も其々の思いを描写して、
最終的にそれを纏める作業って一番の苦難なのでは、
なんて最近思い始めてきました。
(纏めるのはとってもやってみたいのですけどね。)
今回はヒロインの回想+二人視点+いつもの書き方でお送りしました!