Angel's smile
















ケアル――…















 マリア交響曲 50














一言で拍子抜けするロック。


覗き込んだ彼女の表情が子供っぽく歪んだ。


へ?


とロックが間抜けた表情をしたので


女性…は声を押し殺して笑った。


けらけら、けらけら。


舞台に触らないように必死に押し殺して、それでも笑う。


そんな彼女は悪戯が成功した子供のように生き生きとしていた。




「え、嘘だろ」


「いやいや、ホントだし。失礼な、」


「いや、絶対違うって」


「おいこら、それは喧嘩売ってんのか?」


「っていうかお前こえーよ、いろんな意味で」


「………、ちぇ」




反発をやめたは少し不満そうに唇を尖らせた。


そっとため息を吐き再びロックに背を向ける。


口元を覆い隠すように自分の手で塞ぐ。


暫く続いた沈黙が自身の頭を冷静にさせた。




「(俺の胸、今、高鳴ったよな…っ?)」




意識、して……


そこまで考えて首を振った。


そして、鏡の台に手をつきダンマリな彼女に歩み寄る。




「ごめん、」


「…………何が?」


「気に障ったなら……ごめん」


「………」




暫くの間。


はゆっくりと首を振った。




「別に、気にしてなんかない。期待した僕が悪かったの、」


「そんなこと―、」


「それに、今は、少し考え事してた」




自分をいつも責めるを制そうとしたロック。


その言葉の上からかぶせたのはほかでもないだった。


「考え事…?」と鸚鵡返しのようにロックがたずねる。




「最低なことしてたなって、」


「…っ」




純白の清楚なドレスを着ているとまるで


穢れた部分が浮き出てくるかのようだった。


華奢な自身の指先でさえも真っ赤なそれがべっとりとしみているように見える。


たちの悪い×ゲームのような感覚だった。


自然と俯いてしまう。




「 …? 」


「え?」




ふに、




肩に手を置かれ振り返ったときのアクシデント。


ロックの人差し指がみごとにの頬に優しく刺さる。


きょとんと目を見開く


それが恥ずかしさに変わると思ったとおりむっとなる。




「ロック…っ!?」


「ハハ…声殺せって、舞台裏だぜ?ここ」


「〜〜…!!」




握りこぶしを作って冥いっぱいにらめつけて来る


せっかくの容姿が台無しだと思うが、


やっぱりそうしていたほうが彼女らしいとロックは思った。


ま、たまにはいいか…とも。




「あ、そうだそうだ…」




コホンとロックが咳払いをした。


そして頬にかかっている金髪を軽く払って


彼女の頬に手を添える。


の体がぴたりと静止した。




… ケアル …




「!!」


「お、」




不器用な詠唱の後の淡い光。


それはではなくロックの手の中から放たれた光だった。


温かいそれがの頬に浸透するように消えていく。


驚いたのはロックよりものほうが大きかった。




「嘘、魔法……!」


「初めてだったんだけど…成功、かな?」


「いつの間に……あ」




魔石。


の脳裏にそんなキーワードが現れる。


「そゆこと」とロックが相槌を打つ。




「ちゃんと消えたな、よかった」




手を添えた頬を見つめてロックはほっと安堵の息を吐いた。


消えた、という言葉に小首を傾げるだったが、


すぐに気がついた。


それはコーリンゲンでロックがにつけた傷だった。


一瞬の殺意から握り締めたナイフ。


それはの頬に確かな一閃の傷を残した。




「別に、残しててくれても良かったのに」


「…俺が、嫌なんだよ。そういうの」


「………」


「それに、女の子の顔に傷なんかあっちゃ駄目だしな」




ロックがそういった瞬間は小さく噴出した。


「エドガーみたい」と言って、ロックが苦笑しながら頬をかいた。


うん、とが頷いた後、「もう少しで出番ですよ」と


いうスタッフの声にはっとなる。


ロックが頷いて見せてくれた。




「ドラクゥの安否を気づかうマリアが


 自分の思いを歌にする大事なシーンなんだってさ。ここ」


「へぇ…。最後に台本チェックした方がいいんじゃないか?」


「へーき」




まかせて、と言わんばかりににっと笑った。


それからは振り返らずに奥のカーテンから舞台を一心に見つめている。


そんな横顔は入ってきた時と同じ表情をしていた。





「(頑張れよ)」




静かなメロディーが響く。









は一歩ずつ歩き出した。














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あとがき

50話!祝です!ww

一気にここまできたって感じです。
この勢いを殺さないまま次も頑張って書いていこうと思います!

淡々と書いちゃいましたね、今回。
変に伸ばすよりいいかな、何て思ってます(おぉ、後書きっぽい)
この章もあと1.2話かな?
次で初のオルトロスが……だせるかな?←
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