Angel's smile
この想いだけは僕だけのものであれさえすれば――…
マリア交響曲 51
『ちゃんと消えたな、よかった』
君がそんなことを言うから、
『…俺が、嫌なんだよ。そういうの』
馬鹿な僕は少し期待をしてしまったじゃないか。
『それに、女の子の顔に傷なんかあっちゃ駄目だしな』
それでも、君が僕のこと…
ちゃんと女の子として見てくれてることが嬉しかった。
『頑張れよ』
でも、教えてあげない。
誰にも言わない。
言うつもりもない。
いいんだ。
誰も知らなくて。
自分だけが知っていて。
一人だけのもので。
たとえ結末がどうであっても。
たとえ結末が僕の望んだものじゃなくても。
この想いだけは僕だけのものであれさえすれば…
+
静寂の中の唯一の音源はピアノ演奏。
前奏を終え、独唱が始まる。
マリアはゆっくりと吐息を吐き出した。
「 愛しのあなたは遠いところへ?
色褪せぬ永久の愛 誓ったばかりに 」
一歩踏み出して止まる。
振り返りそうになって首を振る。
躊躇いを隠せないマリア。
そっと柱にてを触れさせて身を寄せた。
「悲しい時にも 辛い時にも
空に降るあの星を あなたと想い 」
息を吐いて再び静かに歩き始める。
伏せた瞳は不安に揺れていた。
先ほどまでは高鳴っていた舞台が
今ではしん、と静まり返っていてマリアの声だけが響き渡っている。
「望まぬ契りを交わすのですか?
どうすれば? ねえあなた?
言葉を待つ 」
階段を踏みしめるようにして上り、広場に出る。
その広場の中央にはドラクゥがいて、マリアの表情は自然とほころんだ。
ドラクゥが導くように掌を差し出す。
「さぁ、私と一緒にステップを、」
「…はい」
照れたように微笑みマリアは遠慮がちに手を差し出した。
指先が触れるともう離れていかないように握り締めた。
彼もまた握り返してくれる。
ひと時の幸福。
そしてダンスが始まった。
リードしてくれている彼。
くるりとマリアをまわすものの、手だけは決して離れることはない。
ひらりとドレスの裾が宙を泳ぐ。
月だけが見守る中、二人は至極楽しそうにステップを踏んだ。
「ハハハ…」
そう笑ったかと思えば彼はふわりと姿をかき消した。
手の中のぬくもりが消えてマリアは温もりの残る
自分の指先を胸元へと持ってくる。
そして、彼が消えた場所に添えられていた花束を腕に抱きこみ
さらに上のほうへと足を進めた。
城の最上階、バルコニー。
間奏が終わりを告げる。
マリアは吹っ切るように花束を放った。
「ありがとう 私の愛する人よ
一度でも揺れた この想いに
静かに 優しく答えてくれて
いつまでも いつまでも
あなたを待つ 」
宙を踊りながら落ちていった花束。
全てをなくしたマリア。
ただその場所にバラの匂いだけを残った。
「ラルス王子がおさがしです。ダンスのお相手を
もうお諦めください。我国は東軍の属国となったのですから…」
大臣が言う。
マリアは静かに頷いて大臣の後を追って歩く。
最後に一度、振り返った。
「…」
星空に一閃の流れ星が煌く。
マリアはもう一度、深く頷いた。
それからはもう振り返らずに歩きだした。
+
「よくやった、」
舞台袖で見守ってくれていたロックを見つけて
はすぐに安堵した表情を見せた。
「すっごく緊張した」と伝えるとロックは
朗らかに微笑みながら「お疲れさん」と言った。
「僕の出番は終わり。後はセリスがちゃんとこなしてくれるよ」
「そうだな。んじゃあ一緒に客席で見れるってわけか」
「そゆこと」
楽屋の中央に来ては黙り込む。
「あのさ、ロック」
「…何だよ?」
「着替えたいかも、」
そういうとロックは「――っと、ごめん!」と
慌てた様子で部屋を飛び出ていった。
耳まで赤くなっていた彼。
は鏡に映る自分を最後にもう一度目に焼き付けてから
背中のファスナーを下ろしていった。
いつまでも、いつまでも、あなたを…?
あとがき
51話っすねー
自分で書いてて最近思うのは
まるで小説って生き物みたいです。
気がつけば話が奥深くのめりこんでたりします
当初の設定にはなかった小ネタもちらほら…(汗
あまりに脱線すると修正しますが
あえてこのままでもいいような気がしてなりません。