Angel's smile
裏も、表も、全部が偽り――…
弾かれた偽り 58
イフリートの噴出した炎がへと飛ばされる。
は少し目を細めて悲しみを浮かべながら
左手を向かってくるそれに差し伸べた。
業火はに触れることなく消えてしまう。
幻獣にトランスした今のの魔力が、
彼の魔力を上回っているのだ。
「私たちはあなた方と…っ、剣を交えるつもりはありません」
『裏切り者が何を言ったって、もう遅い』
「――、」
… ブリザラ …
シヴァの掌の球体から冷気が零れ落ちる。
それがを氷結することはなかった。
氷の刃がセリスたちに向かう。
「誰であろうと、」
はロッドの先端部分で一度地面を叩いた。
シャァァ…
氷はすぐに解けて水となり床を濡らした。
魔力の差は歴然だった。
「仲間を傷つけるものは許さない」
幻獣化し、変化した容姿。
その声は人間のものではなく、不思議な音響。
どこか別の次元でなっているような感覚。
淡い桜色の長い髪も、波打つ衣服も、勿論魔力も、
であって、ではない。
そんな中途半端な存在。
トクベツな、そんざい。
「すげぇ、」マッシュが思わず声に出した。
セリスやロックもその言葉に頷いた。
「ふ、さすが……」
「ラムウが力を託しただけのことはある」
イフリートとシヴァが警戒を解いた。
肌に伝わるぴりぴりしたものが消えて、も杖を手放した。
刹那杖は腕輪へと姿を元に戻した。
「仲間達は、まだガストラによって捕らえられ、
ここで魔導の力を吸い取られるのだ…
私も、この研究所のビーカーに入れられ力を吸い取られた……」
魔導の力が無くなるとここに捨てられる。
あとは死すのみ…私達も、もう命は長くない…
ラムウと私達は3対の力をそれぞれ持つ兄弟。
ラムウが力をたくしたのならば
私達もお前達に……
シヴァがそっといって、を手招いた。
はそれに従い傍に歩みよる。
シヴァは細い青白く光を帯びるその腕を伸ばして
の背へとまわした。
「今まで、すまなかった。ずっと、ずっと、信じてあげられなくて。
守ってあげられなくて……
私たちの、都合のいい存在にしてしまって……」
「そんなこと、」
「いいえ、ずっと言えないでいたんだ。すまない。
本当は知っていたんだ。あなたが一人で頑張っていること。
私たちのために自分を犠牲にしてくれていること。
ずっと、ずっとまえから……
でも、信じてあげられなかった。
私たちはとっても弱くて、抗えなくて…だから…っ」
一滴の涙が、氷となって落ちる。
きらきらと綺麗に輝いていてまるで水晶のように純粋だ。
は静かに首を振った。
「ありがとう。そして、今まで僕のせいで苦しめてごめんなさい」
は抱きしめ返した。
同時にすぅ、とトランスが解ける。
数秒の沈黙の後、シヴァは「やっぱりあなたはセラフィムの娘だな」
とサファイアの瞳を細めながら最期に笑ってくれた。
キン、キン……
“ 仲間ももう…命は長くない…お前達に…力を貸すだろう… ”
二つの魔力が弾けて魔石へと姿を変えた。
+
「手、出さないでくれてありがと、」
魔石を二つ、両手に抱えては振り返る。
水晶の原石のような整形されていない石が二つ。
イフリートの赤。
そしてシヴァの青。
それぞれにもう彼等の意識は残ってはいないものの
何か暖かいものを感じさせる。
誰が持っとく?
そういっては魔石を差し出した。
「さんが持ってればいいんじゃないの?」
「いや、僕は大丈夫。母さんがいるし」
きっと皆が持ってくれてたほうがいいよ。
はネックレストップの淡い白色をしている
魔石、セラフィムをそっと撫でた。
そうすることでの表情がゆるんでいるので
そのほうがいいだろう、と全員は頷いた。
結局イフリートはエドガー。
シヴァはセリスが持つことになり、もまたそれに頷いた。
「さて、ここの階段を上まで昇っていけば
カプセルのある研究所まで一方通行だよ」
指差して道を示す。
それからセリスに「後はわかるだろ?」と確認した。
疑問符を浮かべながら相槌を打ったセリス。
そしてその言葉の意味を知ると
「そういうことは先に言いなさいよ」
と軽く叱咤しての背中を押した。
ヘヘ、とは子供っぽく笑って
細い通路を走っていった。
ロック、マッシュ、エドガーの三人全員が
「どうしたんだ?」というような顔をしたので
セリスは口の端をクイと持ち上げながら
「数年ぶりの再会ですもの、私たちは邪魔できないわ」
先を急ぎましょう。
セリスは嬉しそうな表情で先頭を切った。
+
重たい扉を少し力をこめて押す。
ギギィィ…
とさびたような鈍い音を出しながらそれを開け放つ。
気持ちが早く中を見たいと焦る。
真っ暗な部屋だった。
窓が一つ。
奥から差し込む月光。
それが室内に伸びて、光源となる。
コンクリートの冷たい感触。
は視線をそこらじゅうに這わせて
懸命に片割れの姿を探す。
…… シャララ、ラ
鎖の音が耳に入っては
たまらなく嬉しくなってそちらを見据えた。
「――」
目を細めて、
そして、
涙を流した。
あとがき
58話こうしんなり。
取り合えず今回ので『弾かれた偽り』は終了と。
ンでもって次のサブタイトルはこれから決める、と…ww
何かと感動するシーンなのでしょうか?
これからちょちょいとぶっ壊しますので(ここでいうな!)
あーオリジナルがたくさん入るー;;;