Angel's smile
















皆さんになら、この子を任せられます――…















 埋らない溝渠 66














世界が静止している。


この場所に存在している6人を除いて。




「皆さん、お怪我ありませんでしたか…?」




その原因とも言える人物、の双子の兄、


は程よく緊張した面持ちで全員を見渡した。




「…ってことは、お前が?」


「はい。ほど上手くないですが、僕も多少は魔法が使えますので…」


「…そうか。それより君は大丈夫なのかい?」




はエドガーの言葉に深く頷く。




「ええ。ずいぶんと眠っていましたから」


「眠っていた、か…」


「……まぁ今のは半分嘘のようなものですが、


 今は時間がないので許してくださいね」




ずっと眠っていた。


それが今いえる一番近い表現。


詳しく言うには時間が足りない。


ストップをかけたこの静止した状態を


維持するのはなかなか困難なことだった。


そしてそれを涼しそうな顔を変えずには実行していた。


同時にそれは焦っているようにも見えた。




「もうじきカプセルのエネルギーが逆流して危険な状態になるでしょう」


「……!!」


「脱出するルートはシド博士に教えていただくとして、


 今は僕ができる最大限のことをしようと思います」




躊躇もなくはいって、全員を促す。


シドは渋い顔で頷いた。


はさっとのもとに膝をついた。


上半身を起こすようにして抱きかかえる。




「やっぱりこの子が一番ひどいか…」




酷くぐったりとしている。


腹の傷はふさがっているようだがそれでも


少しでも雑に扱えばそれ相応の痛みが伴う。


は他にもさっきからロックが抑えているわき腹や、


マッシュやエドガーに蓄積されているダメージを見て


静かに呪文を詠唱し始めた。


それはナルシェの丘でが見せたものと同じものだった。


ただ、が使ったほうが光が僅かながら少ない気がする。


それでも、今の彼等を通常の状態に戻す。


指先から出るいくつ者光が羽へと姿を変え、


傷箇所に浸透するようにして治癒していく。


エンジェルフェザー。


“ 天使の羽根 ”


それは母、セラフィムより受け継いだ能力。




「サンキュ、…」


「いいえ。僕にはこれくらいのことしかできませんから。…それに」




は口を閉ざした。


次に出てくる言葉は何となく察しがついた。


“傷つけたのは僕ですから”


だろう。


ロックがもう気にするなと声をかけると


やっぱりは苦笑していた。




「そろそろ魔法もきれるころなのですが……をお願いできますか?」


「お前は、どうするんだ?」


「僕は……」




目を一度伏せては視線を奥へとやった。


そこはさっきまでセリスがいた場所。


ロックは複雑そうだった。




「彼女を追います。


 ……無茶してもらっては、僕がこの子に怒られちゃいますので」


「任せて、いいのか…?」


「やっと会えたんじゃないのかい?」




ロックとエドガーがいう。


は頷いた。


それでも追うと。


目が語っていた。




が信用したあなた方なら、きっと大丈夫だと信じてます」




ただそれだけのことです。


はごめんね、と小さく呟きながらの額にキスを落とす。


それからゆっくりとを横たわらせて


は後ろ髪引かれながらも背を向けた。




「彼女のことは、ひとまず僕に任せてください。


 ……それと、妹のことよろしくお願いしますね」




ぱちん、と指を弾く。


同時に止まっていた世界が動き出した。


は指を軽く動かして後ろに軽くとんだ。


の着地の音は聞こえず、


気がつけばかき消されるように彼の姿も見えなくなっていた。


おそらくは移動系の魔法、だろう。


驚くまもなく、全員はあたりの騒ぎに其々を緊張させた。


止まっていた機械音がやけに五月蝿く感じる。


シドはいち早くが言っていた異変に気がついて、


非常口へと全員を誘導した。




「急げ! こっちじゃ!!」




シドが今さっき上ってきたエレベーターのようなものに


全員を乗せる。


自ら動くことのできない


ロックに抱きかかえられるようにして乗った。


シドがスイッチを押してゆっくりと降下する。


下に進むにつれて上のほうから聞こえる


爆発音が徐々に小さくなっていった。


シドは複雑そうだった。




「いくらケフカにおどされていたとはいえ、


 わしはなんということをしてきたのか…幻獣の命を力に…


 この子に言われて…お前達と出会ってわしも決心がついた。


 皇帝に話をしてみよう」




この戦争の愚かさを…








思いつめた表情で、シドは言った。














←Back Next→

あとがき

66話め更新です。

あーさようならー兄様ぁあああ!!!!!><
もう少し書きたかったよぉ!!!(叫)

次会えるのはずいぶん先だー
10話目くらい先だ(もっとかな)←てけとーw

本当はシドに対して兄様が制裁を食らわす(言葉で)
シーンがあったのですが、
シドは嫌いじゃないので省きました(どんな理由!?
私っていやなやつは徹底的だよな;;
inserted by FC2 system