Angel's smile
兄さん――…
埋らない溝渠 68
緑の光がオブラートに包む。
その膜によってサンダラの威力が弱くなった。
魔法攻撃を押さえ込む魔法だろう。
機械が繰り広げたサンダラがその膜に解かされるようにして掻き消える。
がほっと息をついたのもつかの間。
視界に影がかかり身をこわばらせる。
鈍器のようなものが迫っていたのだ。
「……、…」
がかわそうと歯を食いしばり手をついたときだった。
ロックが同じように歯を食いしばりながら庇うようにたっていた。
「馬鹿…!」が叫ぶ。
ロックは両手に構えたナイフをより強く握った。
くい。
口の端が持ち上がった。
― ドッ カ カ カッ ! ―
エドガーとセッツァーだった。
エドガーがドリルで、そしてセッツァーがカードで…
機械の接続部分を狙って攻撃したのだ。
マッシュはもう一体のほうの機械を見事に完封し終えていた。
極め付けに、とロックが腕を振るい切断する。
飛空挺の発進に伴って空へと落ちていった
粉砕された機械たちは小さくショートを起こしてくずとなって消えた。
が肩を落とす。
そしてぐ、と親指を立てたロックに笑顔で体裁を食らわした。
頭が完全に下へと垂れるロックは青筋を浮かべながら噛み付こうとする。
そんなロックをふい、とは無視をした。
そんな二人にエドガーとマッシュはケタケタと笑った。
「ティナが心配だ。ゾゾに戻ろう」
エドガーが言って、セッツァーが「だれだい?」と問いを返した。
そういえば知らないんだったな、とロックは言って
「ゾゾに行くまでに説明しよう……ティナやリターナーや幻獣のことを……」
と促した。
+
飛空挺でゾゾまでは二日弱ほどかかるらしい。
といっても、行きに来た経由より多少伸びる程度なので
然程の気構えも備えも必要ない。
その上一番助かる点は遥か上空ではモンスターが出現しないということだった。
これには全員が妙な緊張をさせずにすむ分
ゆっくりと休養ができる。
は一人壁を伝いながら内部へと入っていった。
背中で聞こえた問に素直に「少し休みたい」ということを告げる。
場所を口頭で教えられてはその道のりをゆっくりと歩んだ。
ロックが追おうとするのを手で制してエドガーは微笑む。
「私が行くよ」
つまりはそういいたいのだろう。
ロックは渋々相槌を打った。
+
窓がある寝室。
は引き寄せられるように窓枠に座って外をぼんやり眺める。
コートを脱ぎ捨てて床に落とす。
それだけで大分体が軽くなった気がする。
軽い気持ちになって、再び外を見つめた。
否、見つめているのは窓……つまりは窓に映る自分だ。
「兄さん……」
そう呟いてゆっくりと額に触れる。
触れることで色々な感覚がよみがえっていくようだ。
『死に底ないが』
『僕を、助けるだって…?』
『今まで一つでもが守り通してきたものなんてあった?』
『父さんだって、母さんだって、仲間達だって…!!
ぜーんぶ見殺しにしてきたくせにぃ――!』
『そんな物じゃ、僕は殺せない』
薄く唇を開く。
彼の言った言葉が何度も繰り返される。
『ねぇ』
『なんだか疲れちゃったな…』
『もう、休んでもいいのかな…?』
伸ばした指先。
窓ガラスに触れる。
伝わったのは冷たさだけ。
『 …うん 』
こんなにも近くに感じられるのに。
こんなにも近い存在なのに。
あまりにもそれは遠くて。
手を伸ばしても届かなかった。
「(もう少し、なんだ……)」
握り締めた手のひら。
『……をお願いできますか?』
『彼女を追います。
……無茶してもらっては、僕がこの子に怒られちゃいますので』
『が信用したあなた方なら、きっと大丈夫だと信じてます』
あえて嬉しい。
無事でいてくれて安心した。
共に行けなくて悲しい。
もう少しだったのに、悔しい。
『 妹のことよろしくお願いしますね 』
複雑に絡み合った想い。
届きそうで、届かない。
もう少しのところで、何かが僕を拒む。
邪魔をする。
埋まらない溝渠。
もう少し、なんだ。
沈黙が続く。
「今は、ティナのことが先…かな」
開いた褐色の瞳は眼光を取り戻した。
あとがき
68話でっすねぇー^^
今回でサブタイトル終わりですね。
本文中に入れ込むことが何とかできました。
何となく人まとまりの絞めって感じが……
…
あ、しないですか(笑)
次に閑話を入れます。
エドガー放置してちゃあだめだしね。
↑たどり着けなかったorz