Angel's smile
















「手、いるか…?」


「いらない。一人で昇れる」


「………」――…















 魔を封ずる者 69














きゅ、と晒をしめる。


すこし窮屈な感じが残るがこれももうなれたことだった。


拭いたにもかかわらずまだ少し湿っている髪を軽く手櫛で整える。


そしてふと、鏡に目がとまった。




「髪…のびたかな…」




毛先を軽く撫でる。


ナルシェの頃は耳を覆うほどの長さだったと言うのに


今では完全に肩についてしまっている。




さんはきっと伸ばしたほうがいいわよ』




そういっての髪をいじっていたセリス。


せっかく綺麗な髪色なんだから。


と微笑んでくれたのがどうしようもなく嬉しかったのを覚えている。


そして「もうお兄さんのフリをしなくてもいいんだから」と


最後にセリスが言った言葉も、鮮明に思いだせる。




「へへ…」




小さく笑みを零してはシャツに袖を通した。


背中の黒い痣のようなものがシャツによって見えなくなった。









 +









「みんな来てたのか…」




ゾゾの最上階。


ティナが眠る部屋に入った早々ナルシェに戻っていたはずの


カイエンとガウ…そしてヴァーユとトールとも合流する。


セッツァーがさっきから気になっていることに対して苦笑した。




「なぁロック、あそこでへばってんのは…」


「ん?」




声を潜めて言う。


控えめに指差されてロックは小さく相槌を打った。


その場所には跪いて微かに切れた息を整えるの姿だ。


「あー」とロックは唸る。




「大丈夫大丈夫。いつものことだから(棒読み)」


「…え?いつもああなのか?」


「そうそう。高いの駄目なくせに“今日は一人で昇るんだ!”って意気込んじゃって」


「え、」




ロックが肩の辺りで手をひらひらさせながらわざとらしく溜息をついた。


セッツァーは彼女のギャップを知って少々戸惑い気味だ。


そしてふと見たロックの背後に、セッツァーは眉を潜めながら数歩離れた。


ロックが思わずセッツァーを見る。


否、見えたのはいきなり顔面を狙ってくるの回し蹴りだった。


ロックが「え?」と思わず零す。


の顔が荒んでいた。




「りゃっ!」




小さな掛け声と共にの回し蹴りが繰り出される。


それをロックは「おぅ!?」と妙な奇声を上げながら背を曲げて何とかかわす。


床に手を着いて身軽な身のこなしで着地する。


引きつるロックは余所にヴァーユとガウは「すごいっす(ガウ)」との歓声を。


そしてカイエンといえば「仲がよいでござるな」といつぞやのセリフを吐いた。




「お、おい…さん…??今のかなりマジ………」


「 次は本気で狙ってやる… 」


「…………は、はい…」




わかったならいいの。


ふん、と鼻を鳴らしてはティナの眠るベッドへと歩いた。




「命がけでござるな」




そんな言葉がの耳にも聞こえた。









 +









ベッドの中のティナは幻獣の姿ではなくいつもどおりの姿に戻っていた。


は魔石を一つ取り出してティナ翳した。




「マディンさん…お願い」


「…魔石!」




差し出した魔石がティナと反応しあう。


反応したかと思えばティナは軽く身じろいでパッチリと目を開いた。




「おとう……さん……?思い出したわ。私は幻獣界で育った」




そういってティナはもう一度目を閉じた。


ゆっくりと何かを思い出しているようだった。


それをゆっくりと言葉に乗せていく。









 +









幻獣マディン。


それがティナの父親だった。


そして母親は人間の、マドリーヌ。


ティナは幻獣と人間の間に生まれた子だった。




“ 幻獣と人間とは相いれない生き物 ”




弱った状態で幻獣界に迷い込んだマドリーヌ。


それを助けたのはマディンだった。




幻獣と人間という障害を乗り越え二人は一人の子供を生んだ。


…それが、ティナ。




幻獣界での平穏な暮らしが二年続いたある日だった。


平和な幻獣界にガストラ皇帝が大勢の兵を連れてやってきた。




『はっは。とうとう見つけたぞ。


 1000年前の書物を謎解き魔導の秘密と幻獣界への入口を。


 探し当てた事が報われる時がやっと来たぞ捕らえよ!!


 幻獣を捕らえた者は思いの褒美をやる。行け〜!!』




幻獣たちが次々と捕獲される。


不安の色を隠せない幻獣。


争いを避けて幻獣界でひっそりと暮らしていたというのに、


人間界と幻獣界を繋ぐゲートをこじ開けて人間達は入ってきた。


それどころか幻獣たちを研究のためにとどんどん捕虜していっているではないか。




『仕方がない…最後の手段だと思っていたが…』


『もしや……封魔壁』


『そうじゃ。嵐をおこして、全ての異物をこの世界から追い出し


 結界のゲートに封印の壁を閉ざす。


 その術を唱えることができるのは幻獣でも特殊な血筋を持つ者のみ。


 今やその術を唱える事ができるのもわしとコヤツだけになってしまった』




コヤツ。


マディンの視線がもう一人の人間へと向かう。


コーリン・


マドリーヌよりも早くこの世界に来た人間。


…マドリーヌの実の兄…




『いってくるよ、セラフィム。を頼むよ』


『………コーリン…!』


『お兄さん!』


『大丈夫』




長老も命がけだった。


衰えた魔力でその魔法を使うことはなかなかに困難なことだった。


双子が手を握り合って震えている。


それを抱きしめるのは母。


生まれたばかりのティナもマドリーヌが守るように抱きしめていた。


即座に二人は魔法を唱える。


嵐が起こり、帝国兵達は一人残らず人間界に引き戻される。


そしてそれに巻き込まれた親子。


人間界に放り出され、そして、封魔壁は閉ざされた。


マドリーヌの抵抗もむなしく力によって払われてしまう。




『もしやお前と幻獣の……これは面白い。


 ファハッハ。私の帝国を築き上げる夢も意外に早く実現しそうだ』




私が世界の支配者となるのだ!! ファファファ……









ここから物語は始まった。














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あとがき

69話更新。

あんましヒロイン親子がでしゃばっちゃダメかなー
とか思いつつでしゃばっちゃったorz
それでも番外編で書きたいなと思っているという…
↑あくまで欲望に忠実な深。

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