Angel's smile
















僕の大好きなもの、覚えてたんだね――…















 愛するというコト 74














「ロックさん……でしたよね?」




丁寧な口調で、彼は微笑んだ。


ぱたんと、読んでいた本を閉じて書庫に戻す。


入口で立ったままのロックに椅子に座ることを進めて、


何か飲みますか?と聞いた。




「いや…お、お構いなく……」


「はは、そんなに緊張しなくても。のときは緊張しないでしょう?」


「結構雰囲気とか違うぜ?お前たち。…似てるけど、全然似てない」


「矛盾してますね」




うっすら口元に笑みを浮かべている。


それも静かな微笑だ。


涼しさを感じるような落ち着いたもの。


ぎこちなくなって部屋を見渡してみる。




「この部屋、昔はが使っていたんですよ」


「あいつが……帝国兵の頃か?じゃあ、お前は?」


「僕はどちらかというと魔導研究所よりの部屋にいましたね。


 僕は兵としては一度も戦ったことないので、必要なかったんだと思います。


 ……そういう汚れ役はが全部自分で抱え込んでいたので」




ロックにとりあえず、と紅茶を差し出した。


はそれと同じものを自分のほうにも出して


砂糖を少し多めに入れた。


甘いものが好き、という点は二人とも同じのようだった。




「僕がそのことを知ったのは本当に最近でしたね。


 最初は確かに僕のほうが兵として訓練を受けていたはずなのに、


 気がつけば彼女のほうが頻繁に連れ出されるようになって。




 ……多分、多少の無茶はしてたんだと思います。


 魔法の能力値なんて、そこらへんの人間にとっては分からない。


 微妙に力の使い方を変えればそれは諸刃の刃ともなりますから。


 はいつも限界の力を出して僕より大きく物を見せていたんです。


 余程僕に汚いものを見せたくなかったのでしょうね……。




 そういう意味では僕、思うんです。


 同じ双子なのに、どうして彼女ばかり苦をするのだろう。


 兄として、彼女に何ができているのだろう。


 にとって僕は、ただのお荷物なんじゃないかって、ね」




紅茶を一口飲む


かすかに目を伏せて紅茶にかすかな息を吹きかけた。


ロックの視線に気がついて、恥ずかしそうに笑いながら


「妹に言っちゃダメですよ?」とすこしおどけた。




「ロックさんはいい人ですね」


「な、なんだよ、急に……」


「いえ、ただ……。前に会ったときも思ったんです。ホント、何となくですけど」


「………」




首を傾けるとより短い桜色の髪が揺れる。


同じ髪色。


同じ瞳の色。


だけど違う。別物。


髪の分け方。


伏せ目がちな瞳。


敬語の口調。


控えめな性格も。


雰囲気も。


違う。


当たり前と言えば当たり前だ。


育った環境が違う。


二人ともいままでは、自分を殺して生きていたから。




「あ、そういえば。あのときの傷は、治りましたか?」


「傷?」


「あの時、確かロックさんだったと思います。お腹の傷、治りましたか?」


「あぁ…あのときか」




ほう、とロックはため息をつく。















『 あーあ、バレちゃった 』




息が止まる。


一瞬のことロックは思わず目を見張った。




まず向けられていたナイフがロックから強制的に離される。


その反動でロックが後方へと吹き飛ばされた。


僅かの刹那。


ソイツは残酷な眼差しで傍観的に見下ろしていた。


直後ロックが地に叩きつけられる。


咄嗟に受身を取ったものの叩きつけられた箇所が痛む。


…そして、一瞬のうちに斬られたそれも。













完全に治っていると言うことを伝えるとはそうですかと安堵をこぼした。


その微笑がどこかぎこちないのは多少の罪悪感があるからだろう。


そんな顔を盗み見て、ロックは思い出したように小包を彼に差し出した。


は疑問符を浮かべながら小包を開ける。


華奢な指先が取り出したのは金平糖だった。




「へぇ。覚えてたんだ……」




それを見つめてうっとりとする。


そしてロックに大好物なんですよ、これ。と嬉しそうだった。


は大事そうにしまって席を立ち上がった。


そろそろ時間かな。


とすこし面倒くさそうに呟いた。




「もう直ぐ夕食会ですね。ロックさんたちも参加されるのでしょう?」


「お前も?」


「ええ、残念ながら。本当は適当な理由を付けてサボろうって思ってたんですけどね


 シドさんとセリスさんにうまく言いくるめられてしまいました。


 夕食はともかく、あまり賑わいものは苦手なのに……」


「(セリス……)賑わいが苦手…か。アイツも嫌がりそうだな」




でしょ?


は肩を竦めてみせる。


盛大にため息をつく様子はよっぽど嫌だと言うことを悟らせる。










「あ、ちなみに僕、リターナー側に座るんです。紹介よろしくお願いしますね」














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あとがき

74話更新ですね!w

今回は兄様とロックのダブルパンチということで。
といっても会話の内容が結構暗めなんですけどね
アウリエルの後悔…みたいな。

過ぎたことはもう直せないということを受け入れて、
彼はこれからの未来をそうはしたくないと言う考えです。
そういういみでは妹よりも平和主義かも。

次から原作に戻ります。
シドの席に兄様が座る予定です。

ということでぽちり (殴)
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