Angel's smile
















道化――…















 夢醒 92














―― あれ?




暗い世界だった。


光すら寄越さない世界。


闇の海。


五感のすべてが奪われる。


記憶さえも。


朧になっていく。


意識が途絶える。




―― ボクは、




夢との狭間。


境界線。




―― 何していたんだっけ?




向こう側は現?


それとも、死?




―― なんだか、




沈んでいく躯。


残骸。


口から漏れる気泡が最後に見えた。




―― とても




墜ちていく。


そこにある世界へと。


足掻く力も。


もう無くなった。




―― 眠たいな









 +









ナイフを握る手が、震える。


こんなにも震えるのは本当に久しぶりだった。


前には仲間の皆殺しを急かすケフカとガストラ。


そして後ろには――


そんな板ばさみで精神は困惑する。




『 さんはロックのこと……どう思ってるの? 』




何時か彼女にそんな質問をしたのを思い出した。


思い出そうとしたわけではなくふわりとよみがえってきた。


彼女は伸びた桜色の髪を軽く押さえながら「どうって?」と聞き返す。




『 ほらあるじゃない。好きとか嫌いとか… 』




セリスの言葉に少し彼女は言いよどむ。


遠くのほうを見る横顔は自分からの質問の答えとしては十分すぎた。


途端に胸がつぶされそうになる。




『 好きだよ?普通に…。たまにヤナ奴だけど、本当はいい奴だと思う 』


『 そう…… 』


『 ??変だよセリス…疲れちゃった? 』




不安げに瞳を揺らして表情を覗き込む彼女。


セリスは彼女の言葉に首を振った。




『 私たち、何があっても友達でいましょうね。絶対 』


『 あ、当たり前でしょ。言わせないでよ… 』




若干照れながら彼女は言った。


そしてぶっきら棒に顔をそらして誤魔化している。


セリスは目を細めて微笑んだ。




彼女は嘘なんてつかない。


屁理屈や悪態皮肉といった子供っぽい事だけはたくみにするけれども


人をだます事はしない。


ましてや人を傷つける事なんて、絶対にないことだ。


ティナやに比べれば短い時間かもしれないけれども


ともに時を共有した仲間だ。


セリスはそれを知っていた。


近くで見てきた。


素直で、甘くて、優しすぎる。


いつだってそのせいで自分を殺していたんだ。


そして今も――




「力とは争いを生むもの…」




ぼんやり。


セリスが呟いた。


震えが止まらない指先。


握り締めて、ごまかした。


紺色の瞳が、しっかりと定まった。




「ならば存在しないほうが!」




セリスは迷うことなくケフカにナイフを突き立てたのだ。


ケフカの魔法が解けて今まで身動き1つ取れなかった


ティナ、ロック、の三人の呪縛が溶ける。


ケフカはあまりの痛さにうめいた。




「いたーい!!!血が…血が!!!ちっくしょ……ちくしょう…ちくしょう…


 ちくしょう…ちくしょう…ちくしょう…ちくしょう…ちくちくちくちく…


 ちっっっっくしょーーーー!!」




気が動転したケフカは次に三闘神へと向き直った。




「戦うために生まれてきた神達よ!今こそ、その力をみせるときだ!!


 ぼくを受け入れろ!!くそっ!


 言うことをきけーぼくちんをバカにするなよ。力をみせてみろー!!」


「ケフカ!やめろ!三闘神を完全に復活させれば世界は消える…それでは意味がない!」




力づくのケフカの行動にガストラが「乱心したのか!」と声を荒げた。


乱心、という言葉にケフカの動きの一切が止まる。


大きく見開かれた目がじろりとガストラを映した。


ざわり。


それには何処か人間離れした不穏なものを宿していた。




「乱心……?皇帝!何をおっしゃっているのですか、


 三闘神の力をやつらに見せつけるときなのにっ!!」


「ええい、仕方のない。ケフカお前はもう役にはたたぬ、残念だがここまでだ!


 悪く思うな……最期の慰めとして、おまえが自ら産み出した魔法で眠らせてやろう……」




ガストラはすぐさま呪文を詠唱して繰り出す。


ファイガにフレア。


さらにはメルトンといった究極魔法までも唱える。


しかし。




「ば……ばかな……なぜ魔法が撃てぬ!!ケ、ケフカ。お前いったい………何故だ???」




魔法が発動されない。


指先からは微塵の魔力も感じられなかったのだ。


老いたよぼよぼの指先を見つめてガストラが落胆する。


ケフカはニヤリ、と両方の口の端を持ち上げて笑った。


まるで踊り狂う玩具を見ているような傍観的でいて狂愛的な瞳だった。




「なぜなら、ボクちんが三闘神の、まんなかに立っているからなのでした!


 すべての魔法の力は三闘神に吸い取られてしまうのだ!


 お気づきになってませんでしたか……?うふふふ」


「…………!」


「三闘神よ、どうやら、最初のえものが、大決定したのだ!


 役たたずになった、皇帝に、お前のその力を、見せついけてやるのだ!!」




道化。










拘束から取れたばかりの3人を助けているセリスがケフカを見て思わず呟いた。














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あとがき

92話目です。

個人的にケフカはとっても好きなキャラなんです。実は。
その割には扱い酷いかもしれませんが、好きゆえ、なのです。

FF6キャラだとやはりティナ、ロック、ケフカは特に好きですね。
ここで共通点を洗いざらい書き記すなんて面倒しませんが
きっと判ってくれるかたもいる…のではないでしょうか。
…たぶん。

前半最終章は『夢醒』(ゆめざめ)にしました。
覚醒ではおもしろくなかったので。

ということでぽちり (殴)
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