Angel's smile
















君へ、僕は手を伸ばした――…















 夢醒 94














飛空挺の甲板にをそっとおろす。


エドガーをはじめとする仲間たちが彼女の無事を確かめるために集まった。


セッツァーだけはいつでも発進できるようにと舵から離れなかった。




ティナととロックが彼女を覗き込む。


トランスした状態のままの


背に翼は無いものの、その姿はあまりにも酷く、天使にはとても見えない。


はすぐに今自分が使える最高治癒魔法のエンジェルフェザーを


へと唱えた。


数枚の羽が舞い降りて傷はいえる。


しかし。


彼女の意識は戻らなかった。


微かだが、息はある。


微かだが、脈はある。


微かだが、心臓が動いている。


しかしそれは同時に最悪な状況でもあった。




「どうして!傷はいえたのに…!」


「…。身体的なものだけじゃないんだ、きっと」


「どうすればいいんだ、…!!」




は荒い息を整える事もせずに思慮する。


僅かに残った魔力で、自身の肉体を治す事も可能だというのに。


彼にそこまで考える余裕は無い。


いつもは涼しそうな表情も今回ばかりはあせっているように見えた。


険しい表情のまま、彼は決心した。


のポーチの部分に手を入れ中を探り目的のものを探し始める。


作業を続けながら説明し始めた。




の中に魔力が残っていてくれれば、まだ救いはあったんだ。


 だけど残念な事に三闘神が彼女が持っている魔力の全てを根こそぎ吸い取ったようだ…」


「ということは?」


「 こちらから治癒魔法を流しても、応える魔力が無いってこと 」




用は外面では癒されたように見えていても内側はそうではないという事。


彼女に意識があり微かにでも魔力が残っているというのならまた話が別。


彼女にアスピルという魔法を使ってもらい、


ここにいる誰かの魔力を吸い取る事ができるというのに。


それが出来ないのなら、とは彼女のポーチの中から小ビンを取り出した。


ちゃぷ、と液体がゆれる。


ヴァーユがそれを見て反応した。




「それ!俺が汲んできた魔泉の水っす!」


「…そう。よかった…本当に持ってた。はいつも


 これを持つようにしてるって聞いてたから」




自分のためじゃないだろうけど、とは言った。


そして少し悩んでそれをロックへと手渡した。


お願いします、と付け加えた。




「僕がやりたいところだけど、さっき切ってしまったみたいで血が…。


 …。ロックさんが飲ませて。体内に魔力が吹きこまれさえすれば、


 僕の治癒魔法にも応える事ができるはずだから――」


「――そうすれば、助かるんだな」


「 任せて 」




凛。


崩壊するこの世界には不釣合いなほど通った声。


定まった瞳。


ロックは彼女の方を持ち上げると蓋を緩めて泉の水を口の中に含んだ。


顎に手を添えるとそのまま躊躇うことなく口付けた。


銀の髪が彼女の頬にかかる。


全部は無理でも確かに彼女はそれを飲み込んだ。




… アレイズ …




は自分の魔力を搾り出すようにしてその魔法を唱えた。









 +









沈んでいく。


ただそれだけの事に身をゆだねた。


ここはきっと深い海。


底知れぬ闇が広がる海園。




『        』




名前を呼ばれた気がした。


誰の声だろう。


そもそも。


本当に私を呼んでいるの?




声に誘われてゆっくりと目を開ける。


さっきまではただ闇が広がっていた視界が、今は少しだけ明るい。


いや、ちがう。


段々とクリアになっていく。


水が晴れて、透き通っていく。


口から気泡が漏れた。


気泡は上へ上へと向かって、昇る。




『       』




だれ。


私を呼ぶのは。


私を起こすのは。


何処から、聞こえる?


聞いた事のある声。


彼の声。


…彼??




『     、  …』




上のほうから聞こえる。


意識がとき済まされていく。


気持ちが膨らむ。


心が宿る。


記憶が。


少しずつよみがえってくる。




君は。


君は?


私知ってる。


この声。


大好きな声。


知ってる。


私、彼のこと知ってる。


ちゃんと、覚えてる。




声の元へと手を伸ばした。


彼が握ってくれると信じて。




記憶が交差する。









―― オレは味方だ!信じてくれ!!




―― やけに静かだな、お前…




―― まぁ、そのなんだ…ありがとな。




―― よし!じゃあ問題ないな!




―― …上出来だ




―― 最後まで…言わせない!




―― もう…もう大丈夫みたいだな




―― ただの“人間”だな




―― …なんで黙って出て行った?




―― 何かあったら、俺に言えよ




―― なぁ、嘘だよな?また俺をからかって――




―― ………………………彼女?




―― じゃあが危ないじゃないか!




―― ごめん、




―― …?




―― ちゃんと消えたな、よかった




―― 俺が、嫌なんだよ




―― 女の子の顔に傷なんかあっちゃ駄目だしな




―― お前はじゃない




―― 俺の知ってるは、一度いったことは絶対に曲げない奴だ




―― もう喋るな。傷口が――




―― いいから、休んでろって




―― お前も、今回はちゃんと休んどけよ?




―― だと、いいな




―― 行くな、




―― 頼むから、行かないでくれ……



















―― 



















ほら、掴めた。














←Back Next→

あとがき

94話目更新です(●´з`)

ざっくりと進みます。
何気にロックの台詞探しが一番疲れた←

原作台詞じゃないもので出来るだけヒロイン関係なもの…
という風にしてぐわっ、と読み返したんですよ。
懐かしいなぁ、なんて思った今日この頃。

王道でベタで、マンネリですが口移し(いうなw)
あーこのまま飲み込んでテイク10くらいいって
ヒロインからサンダラお見舞いされればいいよなぁ、なんて
KYな事考えていたのは紛れもなく深です。
…いやいや、他にいませんって。

ということでぽちり (殴)
inserted by FC2 system