Angel's smile
















その日 世界は引き裂かれた――…















 夢醒 95














腕の中で、彼女がゆっくりと目を覚ました。


ロック。


目覚めて一番にそう呟いた彼女。


ロックは久しぶりの彼女の声に嬉しさがこみ上げてきた。


離れていたのはたった数日だというのに。


その時間はあまりに長く感じ、彼女の一言に自分の中の氷が溶かされていくのを感じた。


あぁ。


そっか。


俺…。


自覚。


はロックを見るや否や少しだけ罰の悪そうにする。




「一人でいった事、怒ってる…?」




まるで子供が親に尋ねるような台詞。


叱られるとわかっていて聞いているのだからある程度の覚悟は出来ているのだろう。


ロックはぐっと唇をかみ締めると彼女を抱きしめた。


何よりも身近で彼女ガ生きている事を感じたかった。


抱きしめてしまえば、息遣い、鼓動、そして声。


一つも零すことなく受け止められる。


ロックは桜色の髪をそっと撫ぜながら言った。




「もう、怒ってない…から」




そんな顔するなよ。


この近距離で呟く言葉。


はロックの腕の中で目を細めるようにして涙を堪えた。


それなのに。


瞳が潤いはじめめる。




「僕、また皆と一緒にいてもいいのかな?」


「あぁ、勿論さ」


「もう一人で頑張らなくてもいい?」


「あぁ。……今までよく頑張ったな」


「――」




顔が歪んで今にも泣き出しそうになる。


こうやって見ると、女の子だという事を実感する。


そういえば。


彼女の雰囲気もも随分やわらかくなったものだ。


初めて出会った頃はあんなにぎすぎすしていたというのに。


少しずつ。


彼女の心も溶かされていったのだろう。


それを拒む日もあった。


優しくて暖かい場所に温度差を感じるときも。


それでも。


彼女は少しずつ変わり始めていったのだと思う。


そう考えると、とても、愛おしく思えた。




隣からの手をとる。


よかった。


よかった。


ほっと安心のため息を零す仲間たち。


は涙を含ませた声で呟いた。




「ただい…ま」




おかえり。


仲間たちが言った。









 +









セリスとカイエンが甲板へと上がってきた。


後ろからは傷だらけではあるがシャドウも一緒だった。


彼曰く「報酬を貰わないうちは死んでも死にきれない」とのこと。




セッツァーはそれと同時に飛空挺を発進させた。


プロペラが回り機体は魔大陸から離れ、飛び立つ。


最後に崩れていく魔大陸をは静かに見ていた。


中央にはまだ三闘神の気配がある。


暴走を、始めている。


崩壊が進む。


険しい顔で見下ろしていた。




“ ヨクモ オコシタナ ”




あの時の残響が木魂する。


ふと隣を見るとロックが自分を見ていた。


こんな状況だというのに、少し安心できた。




「三闘神の力は止められないのか?」


「もう、遅いよ。封印がとかれ、バランスは崩れ、既に暴走ははじまっている……


 あの力に、諍う事なんて――」




はそう言ってしゃがみ込んだ。


生死を彷徨ったあの出来事を思い出して恐怖が蘇ってきたのだ。


体がガタガタと震える。


ティナが不安そうにしながら背中に手をやる。


しばらくは起き上がれそうな状態ではなかった。




バランスを崩した三闘神からの受けたものと同じ裁きの光が地上へと舞い降りる。


ふわり。


それは一見息を呑むほどの美しいものでもある。


が。


その威力は世界を蝕み侵食し、崩壊させた。


大地に地割れが起きる。


地形が強引に引き離され、崩れていく。


人々は困惑しただいまから怒る事に恐怖することしかできない。




神の力に、人は逆らえない。




空中にいる飛空挺も激しく揺れる。




「つかまってろ!」




セッツァーが叫んだ。


しかし次の瞬間、飛空挺の甲板の中央に亀裂が入る。


轟音とともに全員は弾き飛ばされた。


バランスを崩した飛空挺は傾き、仲間たちは地上に放り出される形となる。


も落ちまい、と腕を伸ばした。




!」




ロックが懸命に手を伸ばす。


けれども指先が微かに擦れただけだった。


それが完全に本調子を取り戻していないがとった精一杯だった。


ロックが大きく目を見開く。


遠くなっていく彼。


遠くなっていく意識。


視界の隅で桜色の髪が舞った。




「  ――!!!!  」




途切れる意識の終わりに彼の声が聞こえた。









 ―― その日 世界は引き裂かれた ――














←Back Next→

あとがき

95話。

原作・前編部分はこれにて終了です。
後一話ほどこの章は続きますが予備的なはなしです。
多分短いでしょうね。

前半で95話というのはなかなかの長編なのではないでしょうか。
ここでまで呼んでくださった皆さん、ありがとうございます。
そして同時に。
これからの後半をごゆっくりお楽しみください。

小説のいいところって好きなときに読める事ですよね。
急いで読む必要はありません。
飽きれば読むのをやめればいいんです。
でもま、私は書き続けますけど^^

ということでぽちり (殴)
inserted by FC2 system