Angel's smile
















君との再会――…















 夢醒 96














薄い暗闇にヒカリが差し込む。


懐かしいぬくもりに抱かれ、は目覚めた。


居心地のいい夢の世界。


背後の存在には口元に笑みを浮かべた。




「久しぶりね、


「久しぶり」




レイチェル。




そう言うと彼女はふふと笑みを浮かべた。


ロックの恋人。


そして。


自分が手にかけた女性。


それを思い出したのは最近の事だった。


忘れていたなんて、最低だ。




「どうして、出てきてくれなかったの?」


「あなたが、来てくれなかったからでしょう?」


「僕は――会いたかったよ」


「嘘吐き」




レイチェルは静かにそう言い放った。


何の感情も込めずにいうものだからは押し黙る。


うそか、といえばそうではない。


会いたかった。


会って、ちゃんと、謝りたかった。




ただ――




「彼のこと気にしているのね」


「………」


「 もう知ってしまった。知ってしまった後では、知る前には戻れない 」


「…、」


「……あなたが言った言葉よ?」




レイチェルは後ろからふわりとを抱きしめた。


責めているわけじゃないの、と付け加える。


はうんと頷いて彼女の手に自分の手を添えた。




「レイチェルは、どうして僕を助けてくれたの?」


「私は助けたつもりなんてないわよ?」


「でも…」


「――ただ、お礼をしたかっただけ」




凛。


と水面にしずくが落ちた。


波紋が広がるように心が揺れた。


世界が、段々と明るみを増していく。


彼女の表情が、確かなものになっていく。




「お礼なんて…っ。だって僕は君を――」


「――私ね、記憶をなくしていたの」


「……!」


「大好きだったロックのことも、全部忘れてしまっていた…」




レイチェルが抱きしめていた腕を解いた。


が振り向く。


彼女はに背を向けたまま呟くようにして話した。


レイチェルはこの部屋に唯一ある窓から月を見上げていた。




「偶然の事故だった…本当に。その日ロックに誘われてハンティングについていったの。


 ロックがつり橋を渡っていたとき、そのロープがずいぶん脆くなっている事に気がついて…


 彼が渡りきる前に切れてしまう事がわかったの……その時思わずロックを……


 そして私は……」




は口を閉ざして話を聞いていた。


彼女の声が酷く落ち着いていたせいだ。


こんなにも、心がゆすぶられるのは。




「ロックはすぐに助けてくれたわ。だから、一命は取り留めた。


 だけど……そのときに記憶をなくしてしまったの」




『記憶がないのか?!』


『記憶が……安心しろ。俺が必ず守ってやる。必ずだ!!』


『記憶をなくした……俺は……見捨てたりしない……必ず守ってやる!』


『守る!俺が守ってみせる』




彼の今までの言葉を思い出した。


その言葉たちの裏には、そういう過去があったのか。


今頃になってその言葉の重さを知る。




「ロックは……自分を責めたでしょうね。優しい、人だから…」


「……」


「私は記憶をなくして、ロックのいない今までどおりの日々をすごしたわ。


 そしてあなたが来て、いろいろな事が目の前で起きて、あの時――記憶が戻った」




『ロック…。ロックはどこなの……?伝えないと、早く…


 ねぇ、お願い。ロックに伝えて!私は……私は……、               』


『???………伝えるなら自分の口で言え、そのロックって奴にな』




もう遅すぎたけれど。


レイチェルは最後に寂しそうにいった。


はそんなこと、と呟く。


彼女の頭のなかを読み取ったのかレイチェルは苦笑した。


がサマサの村で見つけた一冊の禁書。


そのなかには、蘇生の魔法も記載されていたのだ。


代価は、命――


レイチェルはそれだけは絶対にダメ。


と強く制した。




「だから、ずっとお礼が言いたかったの。ロックのこと、最後に思い出せて本当によかった。


 あのまま忘れたままなんて、嫌だもの。あなたなら、わかるでしょう?」


「…うん」


「それに――今は貴方がいてくれる」




微笑んだ。


はじめてみた表情。


綺麗に笑っていた。


世界の光が強まる。


そろそろ、時間だ。


夢から醒める時間。


目覚める時間。




目覚めた世界がたとえ望むものでなくても。




「また、会えるよね…?」


「……ふふ、貴方が会いに来てくれればね」




視界が白くなっていく。


無だった意識、感覚が徐々に回復していく。


はふわりと微笑んだ。









じゃあ、またね。














←Back Next→

あとがき

96話。

次回から崩壊後・後編となります。
今回は捏造だらけの話ですみませんでした。

夢に出てくる女性がヒロインを導いてくれる
そしてその正体はというネタは
最初のほうからあったものの一つでもあります。
ロック夢を書こうと思うと彼女の存在をほっとくわけにはいきませんからね!
レイチェルさん好きですし。

だから今回は本当に非道な手段をとらせていただきました。
そのせいで設定の捏造が起こってしまい…
ちょっと反省してます。
けれどもまぁ他にに浮かばない通過点なので満足していますが。

ということでぽちり (殴)
inserted by FC2 system