Angel's smile
















そして僕たちの道はできた――…















 残された希望 97














雨の音が聞こえた。


ぴちゃぴちゃと水が弾かれる音が聞こえる。


重いまぶたを持ち上げてみると天井が見えた。


上半身を起こして、あたりに視線を這わしてみる。


この場所は、記憶にあった。


ここは…ゾゾの最上階だ。




「――さん!よかった気がついたんすね!」


「ヴァーユ…?僕、どれくらい眠ってたの?」


「ん…そうっすねぇ。1年くらい、たつかな…」


「一年も!…じゃあその間ヴァーユが付いていてくれたんだね」




ありがとう、とは言った。


ヴァーユはよしてくださいと少し照れた風にしていて


しばらくして思い出したように立ち上がった。


急いで奥の部屋に言ったかと思うと


「カイエンさん、カイエンさん、気がついたっすよ!」と声を上げる。


…ん?


カイエン?


そんな事を脳裏で考えていると「まことでござるか!」と彼が姿を見せてくれた。




殿!長い間眠っていたから…心配したでござるよ!」


「カイエン!無事だったんだね!…それに、ヴァーユも」


「…っす。いやぁさん見つけた時は驚いたっすよ。


 世界が引き裂かれた後、皆さんを探していたら


 雨の中さんが横たわっていたんすもん」


「(引き裂かれた……夢じゃなかった、か)」




は目を伏せる。


ヴァーユは彼女を気遣って「お腹すいたでしょ、焼き魚持ってくるっす」と種を返した。




「……皆は?」


「わからん。何ゆえあの崩壊の影響で地形がかなり変わったのでござる。


 とりあえず陸続きでいけるジドールとマランダは覗いてみたが……。


 ……あの日から世界は一歩一歩破滅に近づいているでござるよ」




とりあえず、と地図を彼女へと手渡したカイエン。


は地図を一目見て表情をより険しくさせた。


3つほどだった大陸が今では殆どが切り離され島と化している。


は地図を折りたたむと目を閉じて唇をかみ締めた。




「じゃあカイエンは、この大陸以外のところは確かめてないんだね」


「…そうでござるが?」


「なら、他の場所にいるんだよ、きっと」




再び開いた彼女の目はしっかりと定まっていた。


仲間たちが生きているという事を信じている瞳。


希望に満ちたもの。


その先にある未来を見つめている。


カイエンは深く頷いた。


頃合を見てヴァーユが部屋に入ってきた。


焼き魚の他に旅で必要と思われる必要最低限のアイテムを


まとめてある彼女のポーチだ。


よくわかってるじゃん、とが口角を持ち上げる。


いつもの余裕げの笑みだ。




「僕には翼がある。空から皆を探してみるよ……二人はどうする?」


「では拙者たちは二手に分かれてもう一度陸を探すでござる」


「そうっすね。もしかしたらマランダの定期船で渡ってきてる人もいるかもしれないし!」


「わかった、そっちは任せるよ」




そうと決まれば、とは急いで魚を平らげてベッドから降りた。


すぐそばに畳まれていたマントを首元に巻きつけて左肩で止める。


最後に金の髪飾りを髪に通した。


肩を楽に越すほどまでに伸びた髪を軽く結いとめるとは二人に別れを告げる。




「僕はもう行くよ。二人とも、本当にありがとう」


「っす。さん、無理だけはしないでくださいね!」


「そうでござるよ!殿は無茶ばっかするでござるから…」


「………アンタらいつの間にそんなに仲良くなったんだよ」




ぼそりとは零して、ビルの外へと出た。


雨の壁が視界をおおい、下からは風が吹き荒れている。


はトランスすると「じゃあ」と残して飛び立った。


翼をはためかせ一気に浮上する。


の姿はすぐに小さくなった。









 +









傷ついた鳥に自分のバンダナを巻いてやって処置する。


これでもう大丈夫だ、と空へと返してやる。


鳥は大きく羽ばたきときによろめきながらも仲間たちのいる場所へと帰っていった。




「優しいんですね」




後ろで少女の声が聞こえた。


ロックは思わず慌てて振り返り一瞬だけがっかりしたような表情を見せた。


それからいつものように悪いと呟いた。




「気にしてないです。……私とさん、結構似ていますから」


「でも、ごめん、トール」


「………」




ロックは罰が悪そうに顔を歪ませた。


トールは少しだけ困った風にしていた。




「……さっきの町で情報は手に入ったんですか?」


「あぁ。ツェンの町よりもさらに北にある星型の山がそうらしい……悪いな、つき合わせて」


「全然嫌ではないです。それに私のほうが勝手についてきているようなものですし……」




それに。


とトールは続けた。


ロックが小首を傾げて疑問を示す。


トールは微かに微笑んで言った。









「探し物は一人より二人…ですよ」














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あとがき

97話。

崩壊後・後半の始まりです。
はじまりはゾゾでした。
皆さん想像付いたでしょうか。

さて、この先ヒロインはどこへ向かうのでしょうか。
というよりどこからはじまるのか。
というところも必見です。

サブタイトルは『残された希望』
バナンがティナにしたパンドラの箱の話をモチーフにしています。

ということでぽちり (殴)
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