Angel's smile
















水に揺れたのは金の髪――…















 残された希望 98













茜色の空。


燃えているようにも見えるその夕暮れは酷く寂しい気持ちにさせる。


夕焼けの紅が海辺にも写り、世界そのものが紅く染められているようだった。


夕暮れが哀しいと思うのは、


きっとその先にくる闇を知っているからなのだろう。


は高い場所を飛びながら世界を見ていた。




カイエンに地図を貰ったときのあの落胆する気持ち。


今も、同じ。


世界は。


本当に引きちぎられたのだと。


目の前の光景がそれを実感させた。


証拠。


といわんばかりに自分の前に掲示されているようだった。


罪悪感が立ち込める。


無意識に謝罪の弁を述べた。


ごめんなさい。


誰に言うわけでもなく。


また。


誰に届けるわけでもなく。


バサリ。


白い翼が音を立てて羽ばたいた。




「…なんだろう……影が近づいてくる」




前方からやってくる影。


数百メートルほど距離は開いているものの


幻獣化しているの視力では容易に捉えることができた。


鳥、ではない。


鳥にしては大きいようだ。


ならば。




(飛空挺?――でも飛空挺は…)




真っ二つに亀裂が入り全壊したはずだ。


消えていく意識の中でボロボロに崩れ落ちていく飛空挺の姿を見た。


翼を折られたのだ。


もう飛べるはずがない。


距離が近づいてきて飛空挺の説は完全に否定された。


は咄嗟に身構える。




(モンスターか…!)




鼓膜を震わせる甲高い獣声には動きを止めて耳をふさいだ。


脳の奥まで痺れるような感じがして、くっ、と奥歯をかみ締め、耐える。


ヤツは蝙蝠のような黒い翼をはためかせて一直線に彼女へと向かった。


鋭い爪でいきなり攻撃を繰り出した。




「何だんよ、こいつ…!!」


… ライブラ …




が苛立った風に声を上げる。


まるで耳元でガラスを引っかく音を聞いているように獣の奇声が不快のようだ。


ぐ、と手の平を前に押し出すと濃い蒼い色をした光が薄い円状になった。


例えるならスコープのよう。


円状の光を獣を通してみてみるとそいつのステータスがあらわになった。


属性がとは対極を示す“闇”だという事を知り


険しい表情をしながらも気を引き締めた。


骸骨のような顔がカカカカッ、と笑う。


デスゲイズという名の獣はバサリと羽ばたいて旋風を作り出す。




… エアロガ …


「ち。こんなときに限って――」




シェルを唱えて威力を弱める。


それでも掠ってしまった肌には赤い線を作りは眉を寄せた。




はるか下には町がみえる。


そう。


ここはちょうど待ちの真上。


の優れた視力では町の住民がこちらに気づき


不安めいた気持ちで見上げているのが見えた。


女子供は家の中へと身を隠す。


こんなところで、戦闘なんてできない。




「残念だけど。今お前を遊んでやる気はないの…!」


… ホーリー …




闇属性をわかれば毒である聖属性で攻撃するのみ。




「カカカッ――」


「――え、」




爪が、皮膚に食い込む。


それだけでの視界は大きく揺れた。


毒が回るように染色していくようだった。


むせ返りそうなほどの違和感にのトランスは解け、


翼をなくした天使のように地へと落ちていった。


腕を押さえ込み闇の力がはいずる感覚を必死に押し堪える。




デスゲイズが遠ざかるのと同時に、町の人の怯えるような目を見た。


幻獣を初めて見る、人間の眼差し。


それを獣と同等化させて、震え、怯え、そして敵とみなし攻撃してくる。


そんな、瞳だった。




… レビテト …




魔法に包まれながら、彼女の体は水面に叩きつけられる。


深い海に沈んでいくとき、誰かに抱きしめられた気がした。









 +









水を含んだ服のせいもあって、体が重い。


助けられるようにしながら水辺から這い上がる。


軽く咽ながら酸素の入ってきた頭で飛んでいた記憶を取り戻す


ふと傍にいる存在を見上げて、息を吸い込んだ。


自分と同じく水気を含んだ金髪からぽたぽたと雫がたれ落ちていた。


喜びのあまり声を上げようとすると彼は静かにの口を手で押さえる。


そしてもう片方のてで「静かに」とデスチャーした。




… バニシュ …




彼、エドガーの唇が魔法を詠唱して二人の姿は掻き消えた。


しばらくして辺りが騒がしくなってきた。


二人は黙ってその光景を見ていた。




「この海に落ちたのだな!」


「住民の殆どがこっちの方向に落ちたって言ってたんだ!間違いねぇ!」


「…この世界も物騒になったものじゃ。陸だけではなく海や空までモンスターが沸いておる


 ――とうとうこの街も脅かすというのか……」




街を襲うモンスター。


というワードには目を見開きいやいやをする。


どうしようもなくなってエドガーにしがみついた。




(俺はちゃんと知ってるよ)









エドガーは濡れて冷えた体を抱きしめた。














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あとがき

98話です。

ちゃくちゃくとストーリーを進めて意向と思います!
旅立ったラファエルが最初に出会ったのは
「エドガー」でした!
このまま原作の方向へと軌道修正していきますよ。
…ふふ

デスゲイズって闇でしたっけ?←
デスを使うので勝手に闇属性にしてみました(捏造…)
で、ですね。
実はデスゲイズがヒロインに食らわせる技は
「使わないけどグラビデとかさせちゃえー」
という案があったのですが、冷静なもう一人の深が却下しました(ちぇ)

ということでぽちり (殴)
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