Angel's smile
















微温湯への依存――…















 残された希望 99













暖かいところにずっといたせいで、


こういうことにいちいち干渉するようになったんだ。




帝国にいた頃は何を言われても、されても…平気だったのに。


何も思わなかったのに。


今はこんなにも哀しい。


心の氷が解けていくと同時に伴う痛み。


安堵と不安は紙一重。


むせ返りそうなほどの悪寒が駆け巡る。


わかってるのに。


自分が幻獣と人間の合いの子だという事実は変えられないって。


別に。


妬んだり、羨んだりしてるわけじゃないのに。


ただ、どうしようもなくて。


どうすることも出来なくて。


複雑な迷路に出口はなくて。


途方に暮れてしまうだけ。


自分の凍った心を溶かしたぬくもりに、


いつか拒絶されてしまいそうで、ただ――




「俺は、拒絶しないよ」




ふと温もりを思い出した。


人の体温を。


鼓動を。


は見上げた。




「君を拒んだりしないよ」




微温湯への依存。


ああそうだ。


きっとこの温かみになれていたんだ。


ナルシェで感じた異物は、きっとこれだったんだ。


魔法が使えなくなったときに目覚めた感情。


使えなくなっていたのはきっと恐れから。


人間であり幻獣の血を引く自分と、そこに生まれる障害。


ああそうだ、きっと。


怖かったんだ。


拒絶、されるのが…




「うん」




表情が緩んだ。


ほっと胸をなでおろす


それを見てエドガーも微笑んだ。




「たくさん酷い事した僕が…こんな事言っていいのかわからないけど」


「?」


「僕ね、人間好きなんだ…」




それだけ。


はそういうと静かに目を閉じた。


エドガーの肩にしがみつきながら、人のぬくもりに安堵していた。









 +









「ねぇエドガーこれからどうするの?」




翌朝。


調子を取り戻したがエドガーに問う。


エドガーは手の平にべっとりとつけた黒いそれを


髪へと馴染ませながらにやりと笑った。


何をやってるの、と聞けば昨晩水に流されてしまったからね、


と返されての謎は深まるばかりだった。




「フィガロが故障したらしい」


「え、フィガロが??」


「あぁ。助けに行きたいけど砂の中だからな」


「!」




はその言葉に意味を理解してはっとなる。


砂の中に酸素なんてあるわけがない。


長時間その状態が続けば全員窒息死と言うのが関の山だ。


複雑そうな表情でエドガーが綺麗な金髪を黒髪へと染めていた。


それだけで雰囲気が変わってしまう気さえする。




「……どうするわけ?」


「牢に入れていた奴らが何らかの方法で地上へと抜け出せたらしい」


「……。利用するの?」


「流石、察しがいいな」




日が昇り、一日が始まろうとしている。


これからはじまる事には微かにわくわくしていた。


そして準備を終えたエドガーが言う。




「俺は今から盗賊団のボス…ジェフさ」









 +









港町ニケアの街は漁港らしい賑わいを見せていた。


特に南のほうは港も近いせいか商店が揃い、


道具屋からアクセサリーまでなんでも揃っていた。




それらに軽く興味を引かれながらもエドガーと――念のためにと


エドガーが前もって買っていたホワイトドレス(なぜかサイズは丁度いい)


を着て、髪も解いていた――の二人は真っ直ぐにバーへと向かった。


エドガー曰くそこですでに話をつけている子分たちが待機しているとのこと。


猿芝居は“ジェフ”に任せて


黙って付いていこうと暗黙の了解で同意した。




(ねぇ、ジェフ……気づいてる?)


(ん?)


(セリスとマッシュが――)




付いてきてるよ、と言う言葉は飲み込まれた。


彼が落ち着いていたから。


先ほどの質問の肯定に聞こえた。




(あいつ等ならヘマはしないだろう……このまま付いてきてもらおう)


(全く……)









はやれやれと肩をすくめた。














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あとがき

99話です。

今回のストーリーでエドガーのポジションが固定されましたね^^
彼自身ヒロインに恋愛感情は抱いてない模様です。

最初はもちろん国の長という責任から。
そして今は一人の仲間として彼女を守ろうとしています。

それとなくロックとの関係の事も気づいていますが
そこは大人の余裕で気づかぬ振りをしています。
そっと見守っているように見えて、たまにロックをいじっていたり
……とまぁちゃっかりしてたりもします。

もしかしたらFF6の中で一番安定しているのは彼かもしれません。

ということでぽちり (殴)
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