Sunny place
01
トーティスの村に暖かい風が吹いた。
若葉はさらさらと音を奏でて、
村全体を甘い花のにおいが包んでいた。
それはまるで春を告げているかのようにあたたかで…
春の風は悪戯にも木の上にいたの頬をなでる。
緑色のリボンが揺れた。
…そして、の腕の中にいた白い毛に赤い目が特徴な猫がミャーと鳴いた。
「うん、そうだね…。早く終わらせて帰ろう」
まるでその白猫と会話をしているかのようには言葉をつむいだ。
その声にそいつはもう一度かわいらしい声を上げる。
「降りるからしっかりつかまってて、ね…リーフェ」
「ニャア?…………………………ミ゛ャアッ!!!!!」
トーティスの村に春の風が吹く。
そしてトーティスの村に白猫…もといリーフェの小さな叫び声が響いた。
+
村の中でも南に位置する、ゴーリの店。
この店の主人ゴーリは人柄もよく、その明るい性格からか村でも評判がよく、
が尊敬を表す人物の一人でもあった。
ゴーリの店は二階が住居となっており、も店の手伝いをするという条件で住まわせてもらっている。
…いわいる居候というやつだった。
そしてこの場所に、を狩りに行かないかと誘いに来た二人の青年がゴーリの店に足を踏み入れた。
一人は長い青み帯びたグレイの髪を首裏で結んでいるのが特徴のチェスター。
もう一人は金髪に、赤いマントとバンダナをしたクレス。
チェスターはゴーリの姿を見つけると、の居場所を尋ねた。
「なら、南の森に木苺を採りに行っとる…。
そろそろ帰ってくるころだが…。どこかで道草でもくっとるんだろ」
「あぁ、またか」
「…………………また?」
ゴーリの白い眉がくいっと吊り上がる。
クレスはあわててチェスターの口を塞いだ。
チェスターはクレスの手のひらを冷静に取り外すと、
狩りに行くから、途中であったら拾っていくことをゴーリに伝える。
「それは、かまわんが…」
「わかってるよ、親父…。は俺が絶対守るから」
「………………なら、いい。二人とも気をつけていってこい」
「おう!」
「はい!」
威勢のいい返事をすると、二人は種を返して南にある村の方へと歩き出す。
ゴーリは幾分逞しくなった青年達の背中を最後まで見送った。
+
みゃ…とリーフェが声を上げた。
何かを主人に伝えているような鳴き方だった。
「お食べ」
飼い主のはたった今摘み取ったばかりの木苺を、
手のひらにおいてリーフェへと差し出す。
むしゃむしゃと何の警戒もすることなく木苺にむさぼりつくリーフェに、
はあはは…と楽しげな声を上げて頭をなでた。
「……ぁ…」
不意に零れたの声に何事かといわんばかりにリーフェがご主人様を見上げる。
見上げたそこには、不安げに雲を見上げるの姿が…。
「夕方あたり降るじゃろうのぉ…」
「…ぁ、そう…です、ね………………!?」
びくぅ、と小さな肩を強張らせる。
そんなに白い髭を蓄えた老人は「まだまだ甘いのぉ…」という。
「し…師匠さんっ!!」
「おぉ…!ウィルのせがれかの?
じゃが…剣士たるもの、敵に背後を取られるとは…まだまだじゃの」
「…ぅ(け、気配がぁ…)」
言葉を詰まらせた。
師匠…トリスタンは、悪戯が成功した子供のようにけらけらと笑う。
トリスタンはの手の中の木苺をみつけると「ひと粒くれんかの?」とねだった。
どぞ、です。
と、控えめに差し出すとひと粒どころか片手でにぎれるほど、もっていきやがった。
「うまいのぉ…!」
「…はぁ」
「では、わしはもういくかの」
さらばじゃ、と片手を上げたかと思うとあっという間に過ぎ去っていった。
そしてその場に呆然とたつ。
「…なんだった、のかな……?」
やっとの事でそう呟くと今まで静かだったリーフェがミャーと鳴いた。
そしてリーフェが耳をぴく、と動かしたかと思うと、
トリスタンが歩いていった方向に二つの人影が…
「…ぁ!」
きらっと目を輝かせると二人に手を振って見せた。