Sunny place

















 03














『いいかい?…




今からの事に胸を躍らせながら返事をすると、


父…ウィルは微笑むように笑ってから愛娘の頭を撫でた。


そして、自身の手の中に存在するものへと注意を促す。




『……おか、りな…?』


『そう…。よく覚えているね』




えらいぞ、というウィルの言葉にははにかんで見せた。


ウィルは目を細めながら目の前に聳え立つ大樹を視野の中央に入れる。




『この木には“マーテル”という精霊が宿っている…。そしてこの笛の音は精霊が好む音なんだ…』


『…せいれいさんが、だいすきなおと…』


には少し難しかったかな…?』




むぅ…と唸るように首を傾げてみせるの思考は疑問符でいっぱいそうだ。


そんな娘にウィルは小さく笑みを浮かべると、彼女の小さな手のひらの中にオカリナを落とした。


両手出じゃないと握れない大きさのそれを、は物珍しそうに眺める。




『迷ったり、


 寂しくなったり…


 本当にどうしようもなくなったとき…


 僕の言葉を思い出してオカリナを吹いてごらん…




 きっと精霊たちが答えを導き出してくれるから…』


『…???』


『もう少し大きくなったらわかることだよ』




うん。


は大きく頷いて見せて、手の平の中にある大きなオカリナを


大切なものを扱うように丁寧に握り締めた。




それからは朽ちている大樹を見上げほう、とため息を吐いた。









 +









暖かい…湿った風を頬に感じながら大樹のふもとまで歩み寄るクレス。


二手に別れと共に行動していたまではよかったのだが、


こともあろうか逸れてしまった自分に自嘲の笑みを浮かべる。


この森は三人にとっては庭みたいなものだし、だってもう15歳だ。


こうやって逸れた回数は既に二桁を軽く超えるが、


相変わらず見つかるまでの不安は解消されないままだった。


…それは彼らにとって彼女がとても大切だということ。




笛の音に導かれて広い場所へとやってきたクレスは、


目の前に聳える朽ち枯れる大樹をゆっくりと見上げた。




「(でっかい樹だなあ。でも、何でこれだけ枯れてるんだろ)」




周りを見渡してみるが枯れているのはこの樹だけ。


好奇の眼差しでそれを見つめ、距離を縮めていくと


割とすぐそばでいつの間にやらそばに歩み寄っていたの存在に気がついた。


はじめは驚いたものの、彼女が何の外傷もなく無事だったことを確認すると微笑んだ。




「見つけた」


「……ぅ、うんっ!」




怒られるんじゃないか、という警戒を見せつつある


視線を泳がせながら謝っている彼女はどこかおろおろしている。


そんなに困ったように笑いながら




「怪我がなくて安心したよ…。でも今度は逸れちゃ駄目だぞ?」




と、視線の高さを合わせて言うとはこくりと首を立てに振った。


直後、草を踏みしめる聞きなれた足をとが近づいてきて二人の意識はそちらへと向く。




「おいクレス、、探したぞ。こんな所にいたのか」


「チェスター」


「どうだった…?」


「とーぜん仕留めたさ。重すぎるんで途中に置いてきたんだ」




運ぶの手伝ってくれ。


とチェスターは獲ったばかりのいのししを置いてある場所を親指で指しながら、


クレスを誘導した。


その後はの無傷を確認することも忘れては無い。




「2人とも、何やってたんだ?精霊の樹なんかと…」


「精霊の樹?」




思わず足を止めて鸚鵡返しのように聴きなおしたクレス。


も初めて聞いた単語に首を傾げて見せた。


そう呼ばれていることをクレスに教えてやると、クレスは曖昧に相槌を打つ。


そっと精霊の樹に歩み寄るクレス。









“ 樹を…汚さないで…… ”









「(え!?)」


「………クレスのお兄ちゃん?」




慌てた素振りでクレスは周りを見渡している。


疑問符を浮かべながら心配そうにが近づくと、


クレスは今一瞬脳裏に映った緑の大樹が聳え立つような光景を不思議に思った。


チェスターはとん、と肩を叩く。




「どうしたんだよ、クレス。ボケっとしやがって…」


「大丈夫…?」


「いや、今何か聞こえなかったか?それに……」


「しっ!」




今起こったことを説明しようとしたクレスとチェスターが制する。


なんだよ、と疑問の視線を投げたクレスはが不安そうに顔をゆがめていることに気づく。


…そして、聞こえた。


遠くのほうで聞こえてくる鐘の音…




… カン、カン、カン、カン …




「聞こえないのか?警鐘だ、警鐘が鳴ってる!」





はっとなるは頭で考えるよりも先に足を走らせていた。


向かうのは警鐘のなる方向…トーティスだ。


背中に名前を呼ぶクレスの声を感じるがは足を止めない。


のすぐ後ろはリーフェが後を追うように走っている。




「とにかく戻ろう」


「猪は?」


「そんなもんほっとけ。急げ、クレス」


「あ、ああ」




段々と小さくなっていく鐘の音。


チェスターとクレスの2人は妙な胸騒ぎを感じながら、勢いよく地を蹴った。














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