Sunny place

















 04














段々と小さくなる鐘の音。


それはトーティスとの距離が縮まっていくに比例して。


まさか、


とか


もしかして、


なんていう言葉が脳裏を支配する。




「…………っ」




上空に煙が上がっているのを見てはさらに足を速めた。









 +









「…」




町の入り口に着いたは目の前の光景に一歩後ずさった。


言葉を失い、ぐちゃりと表情をゆがませる。


現実を拒むように首を横に振るは今にも泣き出しそうだ。


心配そうにリーフェが主人の足元にすりより、どこかへ導こうと足を押す。


そしてはっとなる。




「…………ゴーリの…おじちゃん…?」




今まで育ててくれた義祖父の存在。


脳裏に浮かんですぐに消えてしまった。


ごくりと唾を呑み込んで足を進ませる。


瓦礫を踏み、横たわる人々を避けるようにしてもう名残のないトーティスの町を走った。




やがては一軒の家の前に来る。


それはゴーリの店…


だった場所。


家は半壊し、原形さえとどめてはいない。


扉は剣のようなもので無理やり壊されているといった感じだ。


こんなこと…町の人なら絶対にしない。


…とすれば……




「おじちゃん?」




扉をくぐりながら出てきたのは意外にもか細い声。


ぎゅ…と胸の前で手の平を握り締めながらは視線だけを配らせるようにして


ゴーリの姿を探した。


辺りは散らかりほうけていて――その中には損傷しているものもある――、


見つけるのに時間がかかってしまった。


けれども…




「――――!」




その姿を目に写しては息を呑んだ。


駆け寄るようにゴーリに近づいて、膝をつく。




「……か………ぇ…っ……たの、か」


「喋っちゃ駄目…!待ってて。今…マリアさんに教えてもらった法術を―――!」




の言葉が最後まで紡がれることはない。


ゴーリによって制されたから…


弱弱しい力で彼女の手首を握り小さく首を振って見せた。


ふっと微笑んだゴーリのてを、はしっかりと握り締める。


段々と暖が消えていくのを感じながら。




「………せめ、て……ぉ前…だ、けで……も………幸………せ、に……………」


「?私は幸せだよ?いますっごく満足してるよ?トーティスにきてよかったって…思ってるよ…!!」


「…すま、…………な………………………………。」




手の中のぬくもりが消えていく。


言葉が消えていく。


存在が…


大切が…消えていく。




――― ス …




握っていた手に重み。


ただ力なく垂れる指先。


閉ざされた瞳は、もう光を浴びることはない。


は大きく目を見開いた…




「…」




如何してだろう…


どうして涙が出てこないんだろう。




こんなにも悲しいのに




こんなにも切ないのに




こんなにも悔しいのに




こんなにも寂しいのに




こんなにも苦しいのに




如何して傍観的にしか見れないのだろう


受け入れられない




終わりはあまりにも









呆気なかった









硬く閉ざした唇を小さく開いて




「ファーストエイド」




小さく呟いた。


傷全体を直すことは出来ない。


けど、せめて…




「(顔くらいは…)」




淡い光が傷口に浸透する。


口端から零れていた血が消えていく。


は最期に目を閉じて冥福した。




『主…』


「…」




沈黙。


傍から全てを見ていたリーフェもこれ以上何か言うことはなかった。


立ち上がったはまるで抜け殻のようにその場に立ち尽くすばかり。


その様子は途方にくれた子供を思い浮かばせる。


ぽつり、ぽつり…


呟くよりももっと小さな声で紡ぐそれをリーフェは、


耳を研ぎ澄ませて聞く。




「…」


『!』




主…と思いつめたように耳をたらすリーフェ。


の呟いた内容が何なのかは他のものに届くことはなかった。




「…」




振り返るそこにはチェスターとクレス。


いつの間にか降ってきた雨に身をびっしょりと濡らしている。


2人ともどこかしょんぼりとしているのは雨のせいではないだろう。


瓦礫の隙間から見える空が、光った。


暫くして雷が鳴る。


三人の間にはそれくらいの間の沈黙が流れていた。




「ぁ…風邪引いちゃう…!」




の口から出たのはそんな言葉。


触れて欲しくない話から遠ざけるような口調。


視線を合わせようとはしない。


そんな彼女にチェスターが眉をひそめる。




「待ってて今薪を…」


「…?」


「奥のほうだったらまだ乾いてるの残ってるかもしれないし…」





「きっとすぐ止むよ、だって―――」


…っ」


「―――!」




腕を引かれたかと思うと、そのまま抱きしめられていた。


とても優しく…強い力で、


決して放さないように。




「クレスさっきの話だけど…」


「…わかってる」


「…。いいか、俺たちも後からきっと行くから」




無言でクレスが頷き赤いマントを翻す。


白乳色のペンダントを服の中に入れたかと思うと


そのまま種を返して雨の中に消えていった。














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