Sunny place

















 06














ピチピチ…


小鳥がまるで昨日何も無かったかのように、


楽しげにさえずりあっている。


瓦礫の隙間からは朝日のの光が差し込み、


雨上がりのつん、と鼻に残るような癖のある


匂いを2人は感じた。


目を瞑ってしまえば“昨日の朝”と同じそれだが、


2人は目覚めることによって現実を受け入れようとしている。




「…やるか」


「…うん」




まだまだ太陽の位置は低い。


長い長い今日はまだ始まったばかり…









 +









昨日の雨雲はうそのようになくなっていた。


健やかに晴れ渡る晴れ空。


朝特有の蒼みを帯びた空色。


薄くも無くかといって厚いわけでもない雲。


春の暖かな風。


目を焼くような太陽。


そして、


大地。




雨みたいに綺麗に流れてしまえばいいのに。


昨日のことに対する疑問と不安。


ふに落ちないような感覚。


昨日だけを置き去りにして、日々は進んでいってしまう。


暖かい風が、今日だけは冷たく感じた。




はそっと抱きかかえていた冷たい子供を


土の中へとおろした。


チェスターとの二人が見守る中、


上から土で覆われていく。


指を重ねて冥福する。


静かに過ぎ去っていく時間。


一人、また一人と弔っていく。


一人、一人に祈りをささげながら。


共に過ぎてきた時間を思い浮かべながら。


そして、ありがとうの一言を。




「残ってるのは…」




先はつむがずに終わる。


も何も言わずに唇を結んだ。


いわずとも知れる人物。


先ほどの言葉から少し開かれていた唇を


チェスターは力をこめて閉ざす。




「俺に、弔わせてくれ……」




ぽつりと一言。


それは風が吹いただけで消されてしまいそうな音量だった。


彼をそこまで慈悲に追いやる人物。


にとっても馴染み深い人物だからこそ、


彼女は静かに首を縦に振った。


静かに風が吹いている。


暖かな春の陽気。


ただ今、この現状では少し肌寒いものに感じた。


そっと頬をなでていくのに、それは切り裂くようにいたい。


そんな感じがした。




「じゃあ私は…お昼ごはん、作ってるから……」




返事はなかった。


ただ一点…もっとも大切だった妹を見つめるチェスター。


その瞳には悲しみと、


悔しさと、


哀れみと、


憤りと、


無念さにゆれる。


はなんとなく唇をかみ締めて


逃げるようにその場を立ち去った。


今の彼に自分のことは見えてはいない。


声をかけても…


否。


かけられるはずがなかった。


先日あれほど自分が取り乱した後なのだから


なおのこと良く分かる。


今の私は何もしてあげられない。




そんな風に思うと、少し、悲しかった。









 +









「ごめんね、リーフェ…つかれちゃったでしょう?」




手招きして、抱き上げて、抱きしめる。


少し強い力で抱きしめているにもかかわらず、


少しも嫌がらずにただ目を細めて自身の頬を


彼女の頬へと擦り付けた。




「弱くて、ごめんなさい…っ」




リーフェの耳元でかすかに零れ落ちたのはそんな言葉だった。


この言葉を届けたい人物はきっと遠くにいて


それがもう二度と届かないのだと、


彼女はちゃんと理解している。


だから、




『(この言葉は僕にではなくゴーリさんに…)』




いったのですね。




亡くなったものの哀しみや、


無念さや


脅える瞬間の恐怖…


ただ何もすることのできなかったものの歯痒さ…


それを背負うのは“生き残ったもの”の運命(さだめ)。


ただ…




「もう…大丈夫。ヘヘ…最近泣いてばっかだね、私」




無理やりに笑って見せる


リーフェを静かに下ろしてから涙をぬぐった。




「お昼ごはん早く作っちゃおう、リーフェ。


 チェスターのお兄ちゃんもお腹すいちゃうし…


 …。それに早くクレスのお兄ちゃんの後を追いかけなくちゃ」




みゃあ。


リーフェは短く鳴いた。


ただ…




全部背負い込んで、どうか潰れてしまわないで




僕はただそれを願い続ける。














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