Sunny place

















 07














「ゴーリの親父…」




目的はとっくに終わった。


彼女のいかにも手作りと言わんばかりの十字架の前で強く誓った後だった。


チェスターはグレーの髪を風に泳がして


の育て親、そして自分達の面倒を見てくれていた


ゴーリへと言葉をかけた。


帰ってきたのは冷たく鋭い風の音だった。




「あの約束はまだアリなんだろ?」




“ わかってるよ、親父…。は俺が絶対守るから ”




「守るさ、絶対にな」




新たな誓いを刻む。


自身の胸の奥底に。


ぐっと奥歯をかみ締めた。




研ぎ澄まされた風の中から新しい音を拾う。


チェスターははっとなり、弓を片手に木の陰へと身を潜めた。


息を殺し段々と近づいてくるそれへと意識を尖らせる。


次第にそれが馬の走る音だと気がついた。




「(ちっ……。この村を襲った奴等か!?)」




弓を一層強く握った。


今度は妹に誓った思いが力へと変わっていくようだった。


馬の走る音と自身の距離が縮まる。


やがて止まった。









 +









ひとつ。


ひとつだけ、気になっていることがあった。


ちゃんと確信が出来ないから、


まだ誰にも話してはいないけど…


ひとりひとり弔っていく時にしっかりとこれだけは確認したこと。


こんな事した奴等の武器は剣だ。


それは傷跡を見れば誰だってわかる。


けれども私が言いたいのは、




「(突きの型式から捻り、抜きの動作に入る。いわば抉り……)」




それはがよくやる剣術の動きだ。


勿論やる時は真剣ではなく木刀の時のみ。


突きというのは距離を保てる上に力の弱い者でもできる。


しかし斬りの型式が相手に大きな損傷を与えるというのに対して、


突きの型式は範囲がせまく、急所を狙うのには


相当の経験と腕が必要だと聞いたことがある。


それを聞いたのは他でもない……




「(  父さん、  )」




ゾクリ、と鳥肌が立った。


一気に血の気が引いた気がした。


それらが収まった頃、は唇をきゅっとかみ締め


首を控えめふった。




「(そんなこと、あるわけない。……きっと疲れちゃってるんだ…)」




その次に浮かんだのは彼のことだった。


ほかほかと湯気が立ち上る粥(それでも残っていた材料で作った簡素なもの)


に蓋をして湯気を遮断する。


もう少しすればいいころあいになるだろう。




「お兄ちゃん呼んでこよっと……」




さっと立ち上がっては小走りで瓦礫の合間を駆け抜けた。


勿論ソードも忘れてはいない。


ちゃんと彼女の背中に存在していた。


隣をひょこひょことついて歩くリーフェ。


でこぼこした瓦礫の道だが特に難はなさそうだ。





そして1分もかからぬうちにチェスターとさっき別れた場所へとたどり着いた。


きょろきょろと視線を這わして目的の人物を探す。


――…いない。


まさか自分をおいて?


その考えはすぐに破棄された。


そんなことするわけないというほうが勝った。





「君は―――」


「―――・・・っ!」




背後からの見知らぬ声に剣を抜いて対峙する。


的に背を向けては隙を自ら示しているものだとミゲールは言っていた。


両手で柄を握り締め伏せた瞳でにらみつけた。




「村を襲ったのはアナタ…!?」


「――ちょ、ちょっとまってくれ、私は……」


「質問に答えて!」


「落ち着いて、私は何もする気は………」




―――その人は敵じゃないぜ」




柄を握りなおし左下部へと引いた矢先、


チェスターの声が聞こえて緊張を一気に解いた。


しゅう、との表情が隙だらけになる。


細く睨み付けていた瞳は大きくて


吸い込まれるほどに深い翠色へと変えて見せた。


対峙した男性に向かって


「な、だから一緒に行動したほうがいいって言っただろ?」


と皮肉めいた笑みを浮かべた。




「―――ご、ごめんなさいっ!あ、あの…てっきり……」


「私のほうはかまわないよ、それより驚かせてしまったようですまないな


 ……こっちの彼からも同じ事をされたからね、平気さ」




お嬢さんのほうが説得が楽だったな、と男性は皮肉を返す。


チェスターは不満そうに一瞬視線を宙に躍らせて


この人物について軽く説明した。


名前をトリニクス・D・モリスンというらしい。


この村に来た理由はクレスの父親であるミゲールに


所用の用事があったためだった。


しかし村に近づくにつれてその異変に気がつき、今に当たるという。


三人へととりわけた粥をスプーンで一口すくって


モリスンはマジマジとのことを見つめた。


はどぎまぎしながら小首をかしげる。




「あぁ、すまない……何処かであった気がしたものでね」


「え???」


「否、そりゃ犯罪だろ」


「は――、別にそういう意味ではないさ」


「どうだか、」




気を損ねたかな?


とモリスンは反論することをやめて苦笑した。


視線をそらしてガツガツと粥を平らげるチェスター。


時折ちらりと向ける視線の先にはがいた。




「いや、ただ……知人にとても似ていたからね。ウィル・という……」


「――!!」


「……、そういえば君の名前は――」




「お父さんのこと、知ってるんですか―!?」














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