Sunny place

















 08














「お父さんのこと、知ってるんですか―!?」




思わず立ち上がった


それをあっけに取られたといわんばかりの二人の視線に気がついて


頬を高潮させながら大人しくしゃがみ込む。


顔を真っ赤に染めてて声を荒げたことに自嘲しながら、


それでも答えを知りたいのかちらちらとモリスンのことを盗み見る。




「驚いた、な。……」




小皿を地に置き顎を撫でながらモリスンは乾いた笑みを浮かべた。




「ウィルに子供がいたとは…。君、名前は?」


「…、です」


か。そうか……アイツに……」




少し目を伏せてモリスンはほう、と息を吐いた。


それが昔ともに戦った同士の生を喜ばしく思う


戦友の顔だということはまだ二人の知らないことだった。


目を閉じて、暫く思慮していたかと思えば、


一枚の紙切れを取り出しそれに万年筆を滑らせる。


ぴ、とそのページを破ってに差し出した。




「私の家までの地図だ。生憎馬は私の乗ってきた一頭分しかない……


 歩きになるだろうが、ここにいるよりはよっぽど安全だろう。」




もちろん、君も。


とモリスンはチェスターとも視線を合わせる。


チェスターはの手にあるメモをさっと取ると


疑うような細めた視線でそれを見つめた。


どうやらモリスンの家はこの村から真南にあるらしい。


しかしその合間には大きな山脈があるので


向かうなら西から回るしかないな、とチェスターは思った。


歩いていって1日ほど…


ちら、と彼女のことを盗み見たが


彼女が真剣な眼差しで頷いたので


チェスターは盛大にため息をついた。


行くことは、決まった。




「んじゃ、後で伺わせてもらうぜ」


「…後で、とは?」


「ええ、私たちは先に行かなくちゃいけないところがあるんです…」


「?」


「えっと、もう一人この村の生き残りがいて、


 その人が今北にあるユークリッドに出かけているんです」




がそう説明するとチェスターは「そゆこと」といって、


メモ紙をしまった。


モリスンはしっかりと頷く。




「そうか…ではその友人も一緒に来るといい。


 そして。君の父さんの話もその時、」


「…!あ、ありがとうございます!!」




胸の前でぐっと手を握り目を輝かせると


モリスンは構わないよ、といわんばかりに手をひらひらさせた。




「それではまた会おう」




二人は顔を見合わせて頷いた。









 +









こつん、と音が鳴った。


静寂の中、その音だけが唯一響いていた。


音は波紋して、きっと眠り続ける彼の耳にも届いているのだろう。


石の壁を伝い、石の天井を見上げ、石の床に足を這わせる。


そうしてやってきた場所には4対の女神像が飾られている空間に出た。


それぞれが魔の力を持つ水晶を片手に持っていて、


その四対の像の中心には一つの棺桶があった。


男はその少し手前で足を止める。


片膝を付いて、身を伏せた。


唇を薄く開いて何事かを呟く。


何度も。


何度も。


何度も。


途切れることなくそれを詠唱する。




“ もうじき覚醒の日が来るだろう ”




真紅の瞳が見開かれた。









 +









「どうしましょう……」




トーティスとユークリッドのほぼ中央にある森の中。


それで聖女、ミント・アドネードは途方にくれていた。


白衣の聖服を身にまとい、帽子と胸元には十字の刺繍が施されている。


帽子の合間から垂れる金の髪は癖一つつくことなく胸元まで流れていた。


両手にはだいじそうに杖が握られていた。


眉を八の字に曲げ、鳶色の瞳で不安げに彼を見下ろした。




「クレスさん……」




そう、クレスを、だ。


クレスとは先ほど牢の中でであったばかりだった。


おじの元を尋ねてユークリッドの町に来たまではよかったのだが、


深夜行き成り黒い騎士団に強襲され


あろうごとか大切なネックレスを奪われた挙句に監禁された、と


クレスは曖昧に出会った時、教えてくれた。


そんな途中に、


監禁されていた自分を助け、ここまで逃げてきたのは良かったのだが、


運悪くモンスターの毒を浴びて今は自分の膝元で目を閉じていた。




… アンチトード …




という法術といわれる治癒術をかけたので


先ほどよりは苦しんではいないのだが。




「(ここにいては…追っ手に見つかってしまうわ。どうしたらいいのかしら……)」




安全な場所へ運ぼうとしても自分の細腕ではどうにもできずたじたじ…


兎に角ミントはただ、追っ手が来ないように祈るしかなかった。


そして、早くクレスが目覚めてくれることも。




カサ、




足音が近づいてきた。


一人じゃない。


ミントはぎゅっと身を縮めて杖を握り締めた。


こくりと生唾を飲み込んでぎゅっと目を閉じた。




「――っと、クレスじゃないか」




はっと見上げた時に映った二人の姿。


細身の長身の弓を握る青年と


背に細い剣を背負う小柄な少女。




ミントはびくびくしながら二人の次の言葉を待った。














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