Sunny place

















 10














モリスン邸にはそのあと一日もかからずについた。


クレスの意識が戻らないものだから、


チェスターが急ごうといったからだった。


彼にしては珍しく皮肉を一つも零さずに


ただ只管にクレスを担ぎながらの道を進む。


その後姿に導かれるように


モンスターに対する対応も徐々に慣れていった。


彼を少しでも楽をさせてあげよう。


という彼女の本能がそうさせていた。




モリスン邸に着いた時には既に深夜をまわっていたころだった。


チェスターは真っ先にクレスを休ませるベッドの用意を


モリスンにお願いして、次に俺たちのベットも、と付け加えた。


その様子に微笑みながらミントは




「(本当は優しい人なんですね)」




に聞こえるように呟いた。


するとも自然と表情をほころばせた。


それがミントへの返事だった。




「どうやら皆疲れているようだ……クレス君のことは見ておくから皆は休むといい」


「あ、ありがとうございます…モリスンさん」


「あぁ、かまわないよ。明日には、クレス君も目覚めているだろう」




そう言って召使にベッドへの案内を頼んだ。


は一度頭を下げてからひょこひょこと召使の後を歩いていく。


行かないの?と言わんばかりに振り返った彼女と


同じく振り返ったリーフェ。


チェスターはさきいってろよ、と一言言うと


何の躊躇う間もなしにはうん、と頷いた。


ミントの隣に立って「さっきは悪かったな、」と切り出す。




「スミマセン私こそ……」


「いや、なんでアンタが謝るんだ?知らなかったんだから必要ないだろ…?」


「でも…傷つけたかもしれないわ…」




ちゃんと謝れたらよかったのに、


謝るタイミングを逃していたミントは顔を渋くさせて微笑む。


チェスターは小さく溜息をついてから一言言った。




「トワはそんなこと気にしてねーよ」




それどころか気に入られたみたいじゃないか、見てたらわかるぜ。


二人の楽しげな会話を思い出してチェスターが


ふっと微笑む。


一瞬の微笑にミントも安堵して頷いた。




「ま、話はそれだけだ。ゆっくり休めよ」


「はい。おやすみなさい…」


「ん…」




片手をひらひらさせて違う部屋に入っていくチェスター。


モリスンさんが気を使ってくれたのか部屋を分けてくれたのだ。


ミントはほう、と息を吐いてから


先にが入っていった部屋のノブを引いた。









 +









小鳥のさえずりが平和を感じさせた。


暖かい日差しが差し込んできて、


思わず目を細めてしまうほどだった。


軽く身をよじって寝起き独特の乾いた声を零した。


それからぐぅ、と身を伸ばすと溜息と共に視界を広げた。


まず最初に目に映ったのは暖炉。


ほかほかと程よく暖かくて、再び眠れそうな感覚に陥る。


そこで、はっとなった。




「ここは、どこだ…?」




見知らぬ場所に、自分が一人。


どうしてこんなところに…


確かミントがいっしょだったはずじゃなかったか?




「おい、大丈夫か?」




渋くて低い声が思ったより近くで聞こえてきて


思わず驚いて飛び跳ねてしまった。


モリスンは鋭い眼光を緩めておやおや、と少し呆れる。


と、同時に「大丈夫そうだな」とホッと息を吐いた。




「あ、あなたが助けてくださったんですか?」




ここは…?


部屋中を見渡してクレスは疑問符を浮かべた。


そんなクレスにモリスンはふ、っと笑んで




「君をここまで運んでくれたのは私じゃないよ。


 もっと若くて元気な友人さ」




と少し肩をすくめて見せた。


そしてモリスンはここは自分の家で、


自分の名前はトリニクス・D・モリスンということ。


そしてミントから色々くわしいことを聞いているということを伝えた。


クレスは段々とはっきりしていく意識のなかで


頷いて理解していることの肯定をした。


その時ゆっくりと扉が開いてミントが入ってきた。


クレスが起き上がっているところを見て


「よかった!気がついたのね」と嬉しそうにいいながら


抱えていた果物かごを机の上に置いた。




「ああ、もうなんともないよ。あの、モリスンさん……」




僕を助けてくれた若い人というのは?


その言葉を代弁するように身近なところで音が鳴った。




―― ビシュッ




「ひっ!」




クレスは思わず声を出し体全体を緊張させた。


はっと音が鳴ったほうを見つめて


籠のリンゴに刺さった矢を目撃する。


そして同時にからかうような声が扉の奥から聞こえてきた。









「目が醒めたか、クレス。…相変わらずなのな」














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