Sunny place

 12 キン。 剣の先が触れ合って、開始の合図。 お互いが剣を構えて距離をつめあう。 緊張感に包まれた空気。 二人の集中力が切れることはない。 ジリ…。 がすこし足を踏み入れた。 「先来ないの?……なら。遠慮なく――」 タッ。と地面を蹴った。 思い切り距離を近づけて攻防の開始となった。 「止めなくて…いいのですか?」 胸の前に交差された両手が不安を示している。 ミントの視線は二人からは離れない。 そしてその声は酷くか弱いものだった。 その様子を見かねて、チェスターが軽い口調で言う。 「アイツ、普段ぽけーとしてっけど、根はすっげー曲がったことが嫌いな奴でな  たまにあんな風に白黒はっきりさせんだよ。  なんでも……くよくよしてる奴みると腹立つんだと」 っま、クレスもそんな柔じゃねーから心配ないだろ。 金属どおしがはじけあう。 力ではクレスのほうが断然上。 けれども集中力と気迫ではのほうが勝っているように見える。 あんな風にしあうことができる仲…… ミントは唇をかみ締めた。 ― 飛燕連脚 ― 体の捻りを利用して剣技、蹴りを組み合わせた技。 アルベイン流の剣技のなかでも割と初期に叩き込まれる技だ。 それは同じくアルベイン流の… 師範の息子であるクレスに見切れないわけがない。 剣を剣で。 とび蹴りを腕で払うように交わして間合いを一気につめる。 「………ふ、」 至近距離まで近づくとそんな彼女の息を呑む音が聞こえた。 体勢を崩すところを見計らってのその攻撃に躊躇いはない。 が目を見開き咄嗟に地をけり後退しようとする。 そこを見逃さずクレスは彼女に攻撃を仕掛けた。 の手から剣がはぎ落とされる。 「――」 空中で体勢を整えてクレスとの距離を保つ。 反動でずずずと体が後ろへと進んだ。 両手で地面を押さえ何とかそれを止めてはっと、彼を見上げる。 は大きく目を見開いた。 腕を組んでいたチェスターが腕を解き叫ぶ。 ― 魔人剣 ― 「バカッ!クレス!!」 「―――ッ」 叫び声も空しく響き渡るだけ。 技を繰り出した後で正気に戻るクレス。 ミントが手で顔を覆い隠して悲鳴を上げた。 リーフェの紅い瞳が揺らいだ。 尻尾のリングがきらりと光る。 後には土煙が立ち上った。 「!」 真っ先に駆けつけたのはクレスだった。 剣を放り捨てて落ち着きつつある土煙の中から彼女を探し出す。 人影が重なって見えて思わず足を止めた。 土煙が落ち着いていく。 見えた影は二つ。 一つはしゃがみ込み、両腕で自身を庇っている。 そしてもう一つは、 「トリスタン……師匠!?」 その驚くようなクレスの声にははっとなって顔を上げる。 怪我はないかの? と聞くその声は酷くやさしくては拍子抜けしてしまった。 そぢてしどろもどろしながら立ち上がり手をひらひらさせて応える。 「あ、ありがとうございます…ッ」 「なあに、怪我がなくて安心じゃよ」 「師匠こそご無事だったんですね!」 クレスがそういうとトリスタンは顔を一層にしわだらけにして笑った。 トリスタンの話によると、あの日、トーティスにいったものの 途中で用事を思い出し引き返したとのこと。 「おしんらだけでも生き残ってくれて嬉しい」 という言葉に何となく安堵させられた。 ミントとチェスターが傍によってきた。 「こりゃあまたおまえさん、メリルの娘じゃの  よう似ておる…美人じゃのー」 「母を知っていらっしゃるんですか」 ミントが驚きながら聞き返す。 するとトリスタンは少しだけ胸を張ってほっほっほ、と笑った。 「わしはのぉ、メリルもミゲールもマリアもウィルもみーんなよくしっとるよ  トリニクスを入れて5人はそりゃあ深い縁で結ばれ取るんじゃ。  メリルは達者にしておるかな?」 「え、ええ……まぁ」 ミントは曖昧に言葉を濁した。 は足に擦り寄ってきたリーフェを拾い上げる。 ちらりとトリスタンがリーフェを見たがすぐに話に戻った。 クレスからモリスンが一人で地下墓地に行ってしまったことを聞いて 少しなおかしな笑い方をした。 「あいつめ、ちょっと法術が使えるからって天狗になっとるな。  クレスとだとてすでに天下のアルベイン流の  第3修練を終えたというのに」 「第四まで終わってます」 「そうじゃったかな?」 「………」 クレスはすばやく訂正を入れる。 惚ける師匠には苦笑しながら黙り込んだ。 「まあいい、まあいい。4人とも行っておいで」 トリスタンはあくまで明るく背中を押してくれた。
←Back /Next→
inserted by FC2 system