Sunny place


















 16














カラカラカラカラ。




鳥が鳴いてる。


遠くのほうで。


日暮れを知らせる鳴き声。


頬に伝わるのは槌の冷たい感触。


草がクッションのようになっている。


ゆっくりと意識は回復し、目を開けたそこに移ったのは綺麗な地平線だった。


そこに膨大な太陽が沈みかけている。


空は唐紅とかし、ダークに染まりつつある。


日が沈む。


ただそれだけのことに見とれてしまっていた。


腕を使って起き上がろうとすると電気のように痛みが走った。


そこで、絶望する。




(ゆめじゃ、なかったんだ……)




左肩の痛みがそれを物語っている。


は一度ため息をつき、左肩をかばいながら立ち上がる。


足元に白猫が擦り寄る。


リーフェだった。


リーフェもきちゃったんだね。


はなんとか微笑むようにしてみるものの


それはだいぶ引きつった無理のあるものだった。


リーフェは主を見上げながら心配そうだった。




「リーフェ、私さ、」


「……?」


「これからどうしたらいいのかな」


「……」




静かに。


呟く。


鳥の泣き声に負けてしまうくらいの小さな声。


少し風が吹けばなかったことになるような言葉。


ふと見渡した視界の端にクレスとミントの姿が映った。




「クレスのおにいちゃん…ミントのお姉ちゃん……」


!よかった、無事だったみたいだね」


「うん、」




いくらか気分が沈んでいる。


言わずとも見ただけで痛いほどに良く伝わった。


クレスは黙り込み、代わりにミントがその後を引き継いだ。




「私たち、三人だけのようです。私たちだけどこか違う場所に……


 ここは、一体どこなのでしょう……」


「クレスのお兄ちゃん……それは?」


「これ…モリスンさんの、本」




これをもっていくといい、と手渡された一冊の本。


手製のものらしく、表紙から中身まで直筆のものだった。


ミントはクレスからその本を受け取りその内容をまじまじと読み始めた。


カラカラカラカラ。


鳥の鳴き声だけが響き渡っていた。


じきにミントはほう、とため息をついて本を閉じた。


そして掻い摘んで事情を説明してくれた。




「まだほんの少ししか読んでいませんが……


 この本には、古の時代のダオスのことがしるされてありました。


 遠い昔、ある若者たちがダオスと戦ったようです。


 その決戦の瞬間、ダオスは時空転移をして、別の次代に逃れた、と」


「時空転移?」




クレスが疑問を言葉にする。


ミントは一度頷いて続けた。


モリスンが話していた逃れた時代の先でダオスは


クレスの両親、ミントの母、モリスン、そしての父によって封印されたのだと。


はどこか遠いところを見ている。


話を聞いているのか分からない。


ただぼうっとしているのだ。




「しかし、封印はマルスによって解かれてしまったんだよな。


 チェスターたちはどうなったんだろう」


「…。とにかく、人のいるところを探しましょう」


「ああ。早く戻らなくちゃならないもんな」


「………」




クレスはマントの土を払って立ち上がる。


その時、コツ、とブーツが何かに当たる音がした。


クレスがあれ?と思いながら足元を注意してみる。


そして、弓の存在に気がついた。


それはチェスターの、愛用の弓だった。


真ん中が完全に折れてしまっていて、使い物にはならないだろう。


それを見てが目に涙を溜める。




「まさかチェスターはもう……」


「クレスさん!きっと大丈夫よ!悪い想像は災いを招くわ」


「ああ」


「……」




ごめんよ、とに謝る。


は黙ったまま首を横に振って大丈夫、と伝えた。


けれども相変わらず黙り込んだままだった。


クレスとミントは顔を見合わせてとにかく今は人のいる場所を探そうと言うことに決めた。




「いきましょうか、さん」


「うん…」




頼りない声。


リーフェを抱きしめながらは頷いた。









 +









崖を降りて、少し北のほうへと歩くと、そこには小さな集落があった。


村、と呼べるほど大きなものではない。


はその集落にどこか懐かしいものを感じるような気がして


少しだけ安堵を覚えていた。


ミントのそばをちょこちょこと歩きながら集落へと入っていく。


中央にやってきたとき、さすがに周りの村人は


見たこともない人物のことを見つめて疑問に思っているようだった。


そんなとき、人ごみの中から一人の老人が歩み寄ってきた。




「やあ、お若いの。客人とは珍しいの。どこから来なすった?」




交友的な雰囲気を漂わせながら、老人は言った。














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