Sunny place


















 17














向こうは法術が分からないと言い、


こちらは魔術が分からないと言う。


あまりにかみ合いの持たない会話だったから少しこんがらがってしまった。


向こうはトーティスを知らないと言い、


こちらはベルアダムを知らないといった。


目の前の自称ベルアダムの村の村長、レニオスは


髭をかきながら顔を渋らせていた。


三人を自分の家へと招待し、今晩とめてくれると言ってくれた。


なかなかに親身な方で、彼が口からでまかせを言っているとは思いにくい。




「あのう、村長。本当に法術をご存じないのでしょうか。癒しの力、なのですが」


「知らんの。癒しってなんじゃい。卑しいわけじゃなかろう?」




クレスとミントは顔を見合わせ、ミントは一度咳払いしてから


「ファーストエイド」と叫んだ。


小さな光の粒がレニオスに降り注ぎ、たちまち顔色が良くなる。




「うおっ。お、お、おおおおぇっ!あらあらあらっ?」


「あ、あなたっ!?」


「はあぁ……き、気持ちええのぉ、ほーじつは」




慌てた様子で妻が飛び出してきた。


レニオスはお構いなしに眉を垂れさせた。


でもやっぱ知らん。


とレニオスはあっさり言ってのけた。




「魔術とはこんな力じゃ――いでよ、炎!」


「!」




指先から放たれた小さな炎。


それは小さく燃え上がり、たちまちレニオスの髭へと引火した。


レニオスは慌てて手をパタパタさせて火を消した。


「すごい」とは思わず席を立ってしまった。


リーフェはの足元で静かに眠っている。




「もしかしてこれがダオスを倒すためのちから…なのかな」


「なにい!?ダオスだと」


「知っているんですか、村長」




当たり前じゃ。


とレニオスは息を荒げて言う。


やつは世界の敵で、やつが現れてからはメチャクチャとの事。


今も着々と勢力を広げているらしい。


クレスが「封印が解けたのは最近のはずでは?」と言葉を挟むと、


レニオスは首を振り、ダオスはずっと前からいるということを説明した。




「ミント、どう思う?ここは未来の世界なんじゃ……」


「でもさ、ひょっとして過去の世界なのかも」


「何を言っておる。今はアルセア暦四二〇二年じゃろが」


「……!四二〇二?」


「…!すごい、102年も前…」


「ほんとかの?」




一瞬の静けさがあった。


全員が全員の目を見詰め合う。


法術を知らなかったわけ、


トーティスを知らなかったわけ、


そして、ダオスの話も、全てがつながった。


クレスは自分を落ち着かせてから、魔術のことをレニオスに聞いた。




「ダオスはだな。魔術でしか傷つかんといわれとる。魔術は必要じゃが……


 残念なことに純潔な人間には使うことはできん。


 エルフの血を引くものだけにしか使えんのじゃ」


「エルフ、ですか」


「この世にはエルフという種族。人間との混血のハーフエルフ、純血の人間の三種類がおる」




人間だけは魔術を使えない。


レニオスはそう付け加えて一区切りおいた。


目を伏せたミント。


そんなぁ、とクレスは肩を落とした。


レニオスは一度目を細めてぐっとをにらんだ。


はひるみながらも小首を傾げてみせる。




「その娘さんなら、使えるかも知れんな」


「!?」


「え、私?」


「そんな、はエルフじゃ……」


「いや、その娘はエルフでもましてやハーフエルフでもない……


 クォーターエルフ……両親のどちらかがハーフエルフということじゃ」




は何のことが分からず疑問符を浮かべるだけだった。


けれどもレニオスがあまりにじっと見つめるものだから


は躊躇いながらも俯いた。


両親のどちらかがハーフエルフ。


父親か、母親。


わからない。




「クォーターなら……魔術は使えるのですか?」


さん!」


「かもしれん、わからんのじゃ。純血のエルフに比べ、その血は4分の1……


 じゃが、試してみる価値はあるじゃろう。魔術の力が、必要なのじゃろう?」


「はい」




はしっかりと頷いた。




「よかろう、ではこの珠を持つのじゃ。そしてゆっくりと念じなさい」


「念じ、る……?」


「何でもいい。感じたこと。思ったこと。素直に念じるのじゃ」


「………」





水晶を受け取りはそれを両手で大事そうに抱えながら


目を閉じて、言われたとおりに念じた。





今の私たちには魔術の力が必要。


ダオスを倒すためには。


置き去りのままのチェスターやモリスンを助けたい。


そして、父も――




… ホウ …




水晶の中に光が灯ったのと、水晶が砕け散ったのはほぼ同時だった。














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