Sunny place


















 18














期待した後の刹那。


珠は一瞬にして粉と化した。


一同驚きを隠せない。


しかしただ一人、レニオスだけはひとり髭をかいて小さくうなっていた。


ぐちゃりと眉を寄せた彼女の頭をそっとなでる。




「気にするでない。血が薄い分、魔力のコントロールに戸惑っておるだけじゃ。じきになれる」


「はい…」


「………。娘さん、名をなんと言う?」


「…です」




そうか、とレニオスは呟いた。


暫く考えるような素振りをして彼女に告げる。




「もしお主が本気で習得したいというのであれば――」









 +









夕食を終え、三人は一部屋を借りて就寝につく。


…ただ。


問題がひとつあった。


それは、




「ベッドがひとつ…」


「あ、うん。わかった。僕が下で寝るから……」


「す、すみません……クレスさん」


「ごめんね……」




まさかひとつのベッドをクレスが使うわけにも行かず、


クレスは半強制的にベッドを二人に譲る。


気にしないで、と優しく苦笑しながら手をひらひらさせていた。


そしてあっという間に床に寝転び、すぐさま眠りについたようだった。


リーフェもベッドからひょいとはなれてクレスの近くに歩み寄る。


かわいそうとでも思ったのだろうか。


今日は一緒に寝てあげるようだ。


ミントとは薄く微笑みあってからクレスに余分にもらっておいた


タオルケットをかけてあげて、自分たちはベッドの中へと滑り込んだ。


大きい枕だったが、落ちないように、と頭を寄せ合い


暗闇の中そっと目を閉じる。


それだけで今日あったいろいろなことが思い出すことができた。


は今日というこの日をいつまでも忘れたくはないと、胸に秘めるつもりだった。




(百年も前の世界。私たちがこの世界のダオスを倒せば、そしたら……


 モリスンさんも、チェスターのお兄ちゃんも、死なずにすむかもしれない)




は薄く眼を開けた。


そしたら真正面に眠るミントと目が合って、互いに微笑んだ。




(一緒に頑張りましょうね)


(…うん)




ミントはもう一度ニコリとして見せてから目を閉じた。


そしてもそっと目を閉じた。


眠りの波がすぐさま引き寄せてきた。









 +









朝。


はまだ日も昇らないうちに目が覚めた。


ぱちりと目を開けると、隣ですやすやと眠るミントを起こさないように


静かにベッドから抜け出した。


扉をゆっくり閉めると、その合間からリーフェが滑り込んできた。


はくすり、と微笑むとリーフェを抱いて外へと歩き出した。




ベルアダムの村に霧がかかる。


は導かれるままに木橋のさくに手をかけた。


ため息をついて遠くを見つめる。


…今はなんとなくひとりになりたい気持ちだった。


リーフェを橋の上にぴょんと降りて、同じ方向を見つめている。




(クォーター、か)




ほう、とため息をつく。


要は魔術だ。


は目を閉じながらそっとレニオスの言葉を思い出した。




『もしお主が習得したいというのであれば――ここで暫く修行をしてみるのはどうかな?』




純血のエルフの下で修行ができる。


その間にクレスとミントはレニオスが紹介してくれるという


一人の男の元に会いに行って何らかの手がかりをもらってくるだろう。


勝手といえば、勝手な話だった。




「おはよう。早いね、


「…クレスの、お兄ちゃん」




寝起き独特の乾いた声でクレスは少し眠そうに言った。


おこしちゃったね、とは苦笑して、もう一度遠くのほうを見つめた。


日は昇り始めている。


クレスは彼女の隣で同じほうを見つめた。




「怒ってる…?」


「何を…?」


「勝手に、決めちゃったこと」




小さくが言うと、クレスはああ、とつむいだ。


そしてすぐさま怒ってないということを彼女に言う。


はすこしだけ俯いた。




「今は少し、時間が欲しいの。……魔術を使い物にできるようにする時間。


 そして、心の整理ができる時間……。


 きっと、今の私じゃ、ただの足手まといだから、」


「そんなこと…」




は首を振るだけだった。


クレスは押し黙った。




「待ってるよ」


「え?」


がちゃんとついて来るまで。先に行って待ってるから」




日が昇りきった。完全に地平線から太陽が切り離された。


の頬が明るみを増す。


は一度左肩の傷口をなでた。


父親に貫かれた傷跡。


これがある内は絶対に、忘れたりしない。


昨日という日を。


絶対に。




「うん、ありがとう。…クレス」














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